第53話 ハーデンベルギア②

「あ、起きてる。」


部屋の中を見た私は、寝たままの少年と目が合った。


少年は首だけを横に向けて、こちらを凝視していた。


まだ毒が回っているらしく、体は動かないようだ。


「お前…!」


少年は私の姿を見て驚いたように目を見開くと、憎々しげに睨んできた。


(やっぱりね…。)


少年の視線が、パーティーで向けられた恐怖と敵意の視線を思い起こさせる。

予想通りの反応だったが、やはり人から敵意を向けられるのは嫌なものだ。


「…。」


私は平静を装いながら少年のもとへ歩き、薬をサイドテーブルに置いた。


そして薬を香焚きにそそぐと、火をつけようとマッチを手にした。


その時、


「っ!」


強い魔力を感じ、とっさに後ろに下がる。


見ると、布団の間から少年の指がこちらに向けられていた。


(まだ身体が動かないはずなのに。)


感心している間にも、少年は次々と攻撃魔法を放ってくる。


「わ!ちょっ…なにしてんの!」


攻撃をよけながら、私は少年の腕を押さえつけた。


「危ないでしょ!まだ毒が回っているんだから安静にしててよ!」


「放せ!この魔女め!!」


少年の言葉にハッと腕を放す。


(「魔女」…。)


固まる私を、少年は睨みつけた。


純粋に私を魔女だと思い、憎んでいる目だ。


(話をするのは…無理そう。)


私は静かにベッドへと近づき、両手で少年の目を覆った。


「魔女が…!」


「ごめん。今は寝てて。」


そう言って魔法を唱えると、少年は静かになった。


少年を眠らせた私は落ちたマッチを拾い上げると、香を焚いて部屋を後にした。


薬の見た目に反して、爽やかないい香りがした。


しばらくすれば、彼は目を覚ますはずだ。


(そしたら、すぐに出て行ってもらおう。)


せっかく朝食を作ったが、もう食べる気はしなかった。


「魔女」と言われて、私はどんな顔をしていたのだろう。


彼の表情を見た時、息ができないほどの恐怖感に襲われた。


この世界での、「魔女」にとっての現実を改めて突き付けられた。


(でもあれが、世間の反応…なんだよね。)


分かってはいたけれど、やはり精神的に来るものがある。


(引っ越しの準備…した方がいいかも。)


「はあ…。」


私は深くため息をつき、一階への階段を下りた。

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