第49話 ミヤコワスレ②

「ああフロー。やっと来たね。」


フローを連れて戻ると、メアリさんが待ちくたびれたように言った。


「ごめんごめん~。この村の人たちは、みんな友達思いなんだねぇ。」


のほほんと答えるフローに、頭を抱えるメアリさん。


シエナさんも困ったように笑っている。


「でも、一番の友達思いはルリだね~。」


フローはつないだ手をぎゅっと握り返した。


「え、私?」


「ふふっ」


首をかしげる私ににこりと笑いかけると、フローは自分の荷物を取りに行った。


「まったく…。」


メアリさんはそうため息をつくと、椅子から立ち上がった。


「もう、行くんですね…。」


「そう気を落とすんじゃないよ。また会えるんだから。」


メアリさんは、落ち込む私の方をポンと叩いた。


「メアリさん…。」


「メアリの言う通りさ。それに、あんたにはあたしたちがついてるしね。」


「シエナさん…。」


私は泣きそうな顔で二人の顔を見つめた。


「はは。そんなに寂しがってくれると、あたしも帰ってきたかいがあったね。」


メアリさんは嬉しそうな、寂しそうな顔をして笑った。


「おやおや、メアリもまんざらじゃあなさそうだねえ。」


「姉さん!」


メアリさんが顔を赤くした。


「お待たせ~。」


そうしていると、バスケットやら手提げやらなんやら、たくさんの荷物を抱えたフローがやってきた。


「フロー…。なんか荷物が増えてないかい?」


「うん~。みんながお土産持たせてくれたのー。」


ニコニコと嬉しそうに抱えているも、さすがに王都まで運べるのだろうか。


「荷車を使うかい?」


「城には、あたしらみたいな下っ端の荷車を置く場所はないからねぇ。いくつかは置いていかないといけないね。」


「えぇ~全部持って行けないの?」


フローは残念そうにお土産を抱きしめた。


「仕方ないだろ。」


「うぅ…。」


フローは不満そうに荷物を置いた。


それを見て、私はピンとひらめいた。


「あ、そうだフロー。いいアイデアがあるよ。シエナさん。何か棒とかありますか?」


「棒…かい?」


いぶかしげな顔をしながらも、シエナさんは一度家の外へ出て、そして長い木の棒を持って戻ってきた。


「この前壊れたカカシの棒なんだけどね。これでいいかい?」


「ばっちりです。フロー、その荷物、この棒にかけれる?」


「うん。やってみる~。」


フローは持ち手のついていないお土産は手提げなどにまとめ、全部木の棒に引っ掛けた。


「それで、どうするんだい?」


「ウフフ…。見ててください。」


私は木の棒に手を当てると、ごにょごにょと魔法を唱えた。


すると、木の棒はまるで重さがないようにふわふわと浮き上がった。


「うわぁ~すごいー。」


フローはパチパチと手を叩き、シエナさんたちは「ほう」と目を見張った。


「浮いてるね。」


「ああ。浮いてる。」


「これで王都まで楽に運べるのではないでしょうか。王都に着いたら、肩にでも乗っけてくれれば、一応運んでいるようには見えますよ。」


「すごいすごーい!さすがルリだねぇ!魔法のステッキだあ。」


フローは感激したように言って私に抱き着いた。


「これで全部持って帰れるよ~!」


「よかったね、フロー。」


「うん!」


フローは嬉しそうに笑った。




「そうだフロー、私これ返さなきゃと思ってたの。」


「ん~?」


私はフローに花の髪飾りを返した。


「パーティーの時に借りたやつ。あのまま持って行っちゃったから。」


「ありがと~。気にしなくてよかったのにー。」


フローはそう言って受け取ると、ポケットの中にしまった。


「あ、私も渡すものがあるんだった~。」


フローは思い出したように言うと、小さな包みを取り出した。


開いてみると、中にはリボンが入っていた。


「これは…?」


「城の皆で作ったの~。ルリに似合うと思って~。」


リボンを手に取ると、銀の縁取りがなされているリボンには、カモミールの小さな花の刺繍が施されていた。


「これをみんなで?すごい…!」


その繊細な刺繍に思わず息をのむ。


「みんなルリに会いたがってたよー。」


それを聞いて、涙がこぼれ落ちそうになる。


「私も…みんなに会いたいよ…っ!」


「よしよしー。」


フローは優しく私を抱きしめた。


「また会おうね~。」


私はフローの目をまっすぐ見つめた。


「うん。また会おう!」




今度はちゃんと、私が会いに行くから―。




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