#847

何百体もいたドローン軍団のボディが崩れていく中――。


ラヴヘイトは、放つ光と共に自身の身体が崩壊ほうかいし始めているシンへと駆け寄る。


「おいシンッ! 右ほおタトゥーッ! まさかお前がやったのは……自爆技かよッ!?」


大声で叫ぶラヴヘイトに、シンは右頬にきざまれた刺青いれずみゆがませて笑う。


そして、目の前が真っ白になるほどの閃光を放ち、周囲のすべてが彼の放った光でおおわれた。


目がくらんでいたラヴヘイトの視力が戻ったときには、すでにシンの姿はなく、何百体もいたナノクローンも宿命の戦車チャリオット オン デスティニーの姿も消えていた。


それからラヴヘイトは、シンが立っていた場所へと歩くと、その前で立ち止まる。


「死んじまってどうすんだよ……。バカヤロウが……」


ラヴヘイトはシンの立っていた場所をながめながらつぶやいた。


かつて人類を滅ぼそうとした暴走コンピューターをあがめる宗教団体――永遠なる破滅エターナル ルーイン


その教祖であり最高指導者でもあったイード·レイヴェンスクロフトの息子シン·レイヴェンスクロフト。


名前と顔だけは知っていた。


世界中にとどろいていた悪名と顔だ。


大学生のラヴヘイトでも当然ニュースなど見たことがあった。


顔を合わせたのは今日が初めてだというに、何故こんなにも胸が痛むのか。


それは理由は違えど、シンがラヴヘイトと同じく、大事な者のために他人を守るために戦っていたと感じていたからだった。


ラヴヘイトがうつむいていると、彼の目の前に突然ドサッと一人の人間が投げ出される。


それは、両手を拘束こうそくされたフォクシーレディだった。


別人かと思うほど表情をゆがめ、うめき声を出してはいるが、その傷ついた身体を見るに、もう戦闘はできそうにないように見える。


「君は……ラヴヘイトだな?」


「アン·テネシーグレッチ……。敵の親玉を捕まえたんだな」


放り出されたところに、アンが現れてラヴヘイトに声をかけた。


アンは彼の言葉にうなづくと、周囲を見渡す。


その顔はいつもの無表情ではあったが、どこか悲しそうに見えた。


「これは、彼……シン·レイヴェンスクロフトと君の手柄てがらだ、ラヴヘイト。君と彼がいなければ、私は戦いに専念できなかったよ……」


「あんたにそう言ってもらえるのは嬉しいが、俺は大したことしてねぇよ……。ちょっと時間をかせいでやるくらいしかできなかったんだ……」


そう言い、再び俯くラヴヘイトの肩へ、アンはポンッと優しく手を置いた。

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