#846

シンは、ラヴヘイトにしばらくの間だけドローン軍団を止めておいて欲しいと言う。


たった一人で自分たちを取り囲む無数のドローンを止めるのは、正直難しいことだ。


ラヴヘイトは無理を言うと思いながらも、シンに訊ねる。


「そいつはお前を守りながらだろ? やれないとは言わねぇがそんなに長くは持たねぇぞ……。で、どうなるんだよその後は?」


「説明している時間はない。どうするこの策? やるかやらないか?」


「やるしかねぇだろうがッ!クッソがッ! そんなもん、さも選択肢があるように言ってんじゃねぇよッ!」


えたラヴヘイトはその場で跳躍ちょうやく


今まで受けた攻撃で溜まったエネルギーをすべて放出し、取り囲んでいるドローンらに向かってブラスターを放った。


「さっきも言ったがそんなに長く持たねぇんだッ! さっさその策ってのやりやがれッ!」


空中で全方位へブラスターを放ちながらさけぶラヴヘイト。


そんな彼の姿を確認したシンは、凄まじい轟音と閃光が飛び交う中で、両目を閉じて静かに両腕を動かし始める。


それは大昔の古典舞踊のような動きだったが、シンは自分で今おこなっていることを、頭では理解していなかった。


だが、遠く離れた場所にいた父――イード·レイヴェンスクロフトが彼に使った伝承法ユーズ トラディション――。


時の領地タイム テリトリーの奥義により、かつて里始まって以来の才能といわれたイードと同等の技や術を、まるで鳥が習わずとも空を飛べるような感覚で使用する。


「ダブ……母上……。我が父イード·レイヴェンスクロフト……」


その場で舞いながら亡き弟と母親、そして父親に呼びかけると、シンの全身から光りかがやき始めた。


シンの身体から光が放たれ始めていたとき、エネルギーを出し尽くしたラヴヘイトが地面へと着地し、声を張り上げる。


「ちくしょう弾切れだッ! おいまだかよシンッ!? こっちはもうおさえてらんねぇぞッ!」


「よくやったぞラヴヘイト。お前のおかげでこちらの準備はととのった」


ラヴヘイトの叫びに答えたシンは、その身体から放っていた光を周りを取り囲んでいたドローンの軍団へと放つ。


その放たれた光に触れたラヴヘイトは、とてもおだややかなあたたかさを感じていた。


まるで眠る前に抱きしめてくれる家族のような、そんな感触だ。


そして、その暖かな光に当たった無数のドローンは、次々と身体がくずれていく。


「なんだよおい……。こんなスゲェ技があんなら最初からやれっての」


顔を引きらせてその光景を見ていたラヴヘイトが、シンのほうを振り向くと――。


「おいシンッ!? お、お前の身体ッ!?」


彼の身体は放っていく光と共に、徐々じょじょ崩壊ほうかいし始めていた。

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