#838

持ち上げられたブライダルは、電撃で焼け焦げた身体の痛みにえながらも、ニヒヒといつもの笑みを浮かべる。


「やれるもんならどうぞご自由に~。いくらヴィンテージでも不死身の私を殺せるかな?」


「大した自信だな。だが、私は何度も伝えたはずだ。適合者の力を舐めるなと」


そう言ったローズの全身から稲妻がほとばしった。


その凄まじい雷光は、これまでの戦いで何度と見たものではあった。


だが嫌な予感がしたのか、ブレイク、ソウルミュー、エンポリの三人はまるで悲願ひがんするように叫ぶ。


「やめろッ! テメェの相手はオレだろうがッ!」


――と、ブレイクが立ち上がり。


「ブライダルッ! なんとかして逃げろよッ!」


――両手を失ったソウルミューの咆哮ほうこう


そして、一番ローズの近くにいたエンポリは、ブライダルを助けようと飛び掛かる。


「俺……俺たちアルマー兄弟の力を舐めてんのはお前だッ!」


だが、先ほどローズによって土手どてぱらに穴を開けられた彼の身体では、もうオーラを放つこともできず、カウンターで振り落としたピックアップブレードの刃により真っ二つに焼き斬られてしまった。


「エンポリィィィッ!!」


ブレイクとソウルミューは彼の名を叫び、満身創痍まんしんそういの身体を引きずりながらローズへと走る。


「エンポリ君……。あんた……私のこと好きだったのかな? ハハハ……」


「仲間の死に対してそんな台詞せりふくか。つくづくよくわからん奴だ」


「別に理解なんて求めてないよ~。それにさぁ~。私はあんたのためにわざわざ死亡フラグを立ててあげたんだよ。私のここからの逆転劇はジュブナイルなら王道だけど、それを破棄はきしてあげたんだから感謝してもらいたいね」


「涙を見せ、それでも軽口を続けるか。道化どうけの生き方も大変だな」


ローズの指摘してきした通り――。


ブライダルは涙を流しながら笑っていた。


そのときの彼女の顔は年相応としそうおうの少女ものだった。


ブライダルは泣き笑いながら言葉を続ける。


「あんたも似たようなもんでしょ。私じゃエンポリ君のかたきてそうにないけど……。この世界で一番素敵な傭兵少女ブライダル様が断言だんげんしてあげる。あんたは絶対に……ぜぇ~たいに敗北するんだからッ!」


「長い遺言ゆいごんはそれで終りか? ならさっきの男の後を追わせてやる」


そう言ったローズが、持ち上げていたブライダルへまとっていた電撃を放った。


凄まじい雷鳴らいめいと共に周囲へ閃光が飛び散ると、ブライダルの身体は跡形もなく黒い灰へと変わってしまう。


「ブライダル……マジで死んじまったのか……?」


「嘘だッ! おいブライダルッ! ふざけてねぇで生き返りやがれッ! 笑えねぇんだよッ!」


残された二人――、


ブレイクがその場に立ち尽くし、ソウルミューは声を張り上げて彼女の名を呼び続けていた。


だが返事などなく、ブライダルの灰となった身体は、そのまま風に吹かれて空へと消えていった。

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