#836

――ローズへと斬り掛かるブレイク。


だが、その実力差は圧倒的で彼の剣は届かない。


「どうした? 動きがにぶっているぞ」


振り落とされた剣を避け、ブレイクの頭を掴んでその顔面に膝蹴り。


折れた鼻の上から喰らわされたブレイクの顔に、容赦なくローズの膝が突き刺さる。


「ぐはッ!」


「剣技にたより過ぎだな。私がいつまでもお前の土俵に付き合うと思ったのか?」


ローズはピックアップブレードを腰に戻すと、ひるんだブレイクのボディに右ストレート。


装甲アーマードした機械の腕が腹部に突き刺さり、鈍い音と共に何本かの肋骨ろっこつ粉砕ふんさいされる。


そこからはローズの一方的な攻撃が始まった。


ブレイクはなんとか反撃をこころみるも、剣から格闘へと切り替えた彼女の猛攻に手も足も出ない。


それもしょうがないことだった。


今まではブレイク、ブライダル、ソウルミュー、エンポリ四人で、ローズと戦っていたのだ。


それが今やブレイク一人――。


しかも得意の剣での戦いではなく、より近距離での戦闘――ラフファイトに持ち込まれ、完全に抵抗の目をふさがれている状態に追い込まれてる。


「クソったれがぁぁぁッ!」


だが、ブレイクはえてみせる。


なんとかローズに一太刀ひとたち浴びせようと、けして倒れずに相手をにらみつける。


そして彼が剣を構えると、無限刀インフィニティソードが輝き始めた。


剣から光の粒子が現れると、それが舞い始めてローズを襲うが、ローズははえでも追い払うように機械の腕で振り払うと、いとも簡単に消え去ってしまう。


「その技も呆きたな。もっと他の芸はないのか? 神具なんだろうそれは?」


余裕のローズは喋りながらも左と右ジャブ。


ワンツーとリズミカルに打たれた拳から、次に全身を回転させ、裏拳をブレイクのこめかみへと叩き込む。


防戦一方のブレイクだったが、なんとかローズから距離を取り、再び剣を構えた。


すると再び剣が輝き、その光を浴びたローズが違和感を覚え、自分の手に目をやるとまるで老人のようなしわができ始めていた。


「ほう、また変わった技だな」


ローズの全身から力が抜けていく。


反対にブレイクの身体の傷がえていく。


おそらく神具の能力だろう。


ローズは確認を終えると全身から電撃を放った。


剣を構えていたブレイクは吹き飛ばされ、彼女の身体の皺は消えていく。


「だが、つまらん芸だ」


ブレイクは再び剣を構える。


剣は先ほどとは違う光を放ち、そのまぶしさにローズが思わず目を閉じると――。


「ロミー……」


「こ、これは……?」


彼女の前に白銀色の髪をした少年が立っていた。


その少年の傍には、二本の足で立つ黒い毛をした電気仕掛けの仔羊が鳴いている。


「クロムにルー……?」


周囲は雪景色。


ローズが育てられた氷の大陸の光景だった。


クロムとルーはローズへとその手を伸ばす。


「ロミー、もう戦いなんてやめよう。ここで一緒に静かに暮らそう」


優しく語り掛けてくるクロムと、はしゃぎながら鳴くルーの姿を見たローズは、手を伸ばしそうになったが、突然目の前の二人へ電撃を放った。


クロムとルーが消えていくと、周囲はもとの平地へと戻っていた。


今見た幻覚は、神具によるものだとローズは理解する。


そして、ローズはブレイクを見つけると激しく顔を歪めて叫ぶ。


「よくも土足で私の心に入ったなッ! 恥知らずめッ! 今すぐ殺しやるッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る