#813

「どうして……どうしてそんなに戦いたがるんですか……」


双子の弟のジャガー、大事な後輩だったクリーン――。


さらにはライティング、トランスクライブ、メモライズ、ロウルを殺されてもまだ敵の手を取ろうとしたジャズだったが。


ローズは彼女の差し伸べた手を取らなかった。


肩を落とすジャズを見てアンは思う。


やはりこうなったかと。


だがアンは、それを口にしなかった。


それから彼女は、うつむくジャズの前にある通信機器を操作して、メディスンに連絡を始めようとした。


「アンさん……何をするつもりですか?」


ジャズがその手を掴み、アンに訊ねた。


彼女は隠すことなくメディスンに援軍を頼むと答える。


「ここはもうすぐ戦場になる。いくらなんでも私たち二人ではローズのことは止められない」


「だけど、それじゃ戦争になっちゃうじゃないですかッ!?」


アンは声を張り上げるジャズの手を取ると、彼女のことを見つめた。


そしてその口を開く。


「そうだな。戦いは始まる」


そのときのアンは無表情だったが、その声を物悲しさを帯びていた。


目を合わせていられなくなったのか。


ジャズが目を逸らすと、アンは言葉を続ける。


「わかってくれ、ここで君を失うわけにはいかないんだ。それと、おそらくこれが最後の戦いになるだろう。ここでローズとエレクトロハーモニー社を倒し、世界の混乱を完全に止めるんだ」


ジャズは答えない。


黙ったまま地面を見つめている。


アンの無表情が崩れ、発した声を同じような悲しいものへと変わった。


「君の理想は……いや違うな。君たちがやってきたことは素晴らしいことだったと言い切れる。だが、いつも血を流さないというわけにいかない。ときにはこういうこともある。……戦わねばならないときがな」


そう言ったアンは、声色を変え、優しくジャズに語り掛ける。


「覚悟を決めよう。“君たち”が望んだハッピーエンドを手に入れるために」


ジャズは顔を上げ、コクッとうなづいた。


そのジャズの表情からは、もう迷いは消えているようだった。


戦うしかない――。


ローズのことを止めるのだと。


決意を改めて引き締まったものへと変わっていた。


「はい。だけど、あたしはローズ将軍のことも諦めたわけじゃありませんよ」


そう気を吐いたジャズを見て、アンは頷き返した。


だが、その内面では――。


(もう何をしようがロミーは止められない。この子のこの甘さが、命取りにならなければいいが……)


ジャズの覚悟の言葉に、一抹いちまつの不安を覚えるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る