#796

それからローズは、ウェディングのことなど気にせずに話を始めた。


何故自分が陸上戦艦内にこんな研究施設を造ったのか。


それは、失った大事な人間をよみがえらせるためなのだと。


「これは、帝国内でも死んでしまったスピリッツ·スタインバーグと、この研究施設で実験をしているジェーシー·ローランド二人しか知らんことだ。もうわかっただろう? 私は正直ストリング帝国などどうでもいい。ただ良いように利用しているだけだ。私が信頼しているのは、今挙げた二人だけなのだからな」


「なんで……」


「うん?」


「なんでそんな話を私にするんですか……?」


狼狽うろたえるウェディングに、ローズは微笑みかける。


その笑みは、長年付き添った友人へ向けるようなおだやかなものだった。


「それはな。お前も私と同じだからだよ」


「同じ……ですって?」


「そうだ。お前は私と同じく、すべての行動の原理が大事な者への深い愛だからな」


ローズは再び説明を始める。


今から七年前の戦争――アフタークロエの前に起きたコンピュータークロエの暴走。


その戦いは、ローズ、アン、ノピアらヴィンテージの活躍によって、世界は救われた。


だがローズは、世界よりも大事な愛しい人を失った。


「クロム·グラッドストーン……。その名は知っているだろう? 私やノピア·ラッシクと同じくヴィンテージなどと呼ばれている男だ」


ローズは彼の名を口にすると、酷く悲しそうな顔をした。


それまでの余裕の笑みも、相手を嘲笑あざうような表情をしていた人物とも、まるで別人のような顔だ。


「私は彼を愛していた……。それは昔も今も、そしてこれからずっと変わらない」


「じゃあ、あなたが戦っていた理由は……」


ウェディングには気が付くと、ローズに対していつもの丁寧な口調へと戻っていた。


それは、彼女に共感したこととその目的に気が付いたからだった。


「気が付いたようだな。さすがはハザードクラス、バイオニクス共和国にもっとも優秀な人間に選ばれることだけはある」


「あなたが……あなたがこれまで戦ってきたのは、全部愛する人をよみがえらせるためなんですか?」


「その通りだ、ウェディング」


ローズはピックアップブレードのスイッチを切った。


それから光の刃が消え、ブレードの柄を腰に収める。


「私の目的はそれだけだ。そして、私はお前の深い愛に共感を覚えたのだ。サーベイランス·ゴートを許せなかったのだろう? それはお前にとって大事な者だったカシミア·グレイの命を奪ったからだ。さらに私を殺したいくらい憎いのだろう? それは同じく私がクリーン·ベルサウンドを殺したからだ」


再びウェディングへと手を伸ばす。


「お前は私と同じなのだ。私は、私からクロムを奪った世界が憎い……。だが、すべては取り戻せる。私と来い、ウェディング。そうすればカシミア·グレイもクリーン·ベルサウンドも、お前の大事な者たちをよみがえらせることができるぞ」


武器を収め、手を差し出してきたローズに――。


ウェディングは何も言い返すことも、何もすることもできずに、ただ立ち尽くしてまっていた。

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