#797

私のもとへ来いと言って、手を差し伸べるローズ。


何もできずに唖然あぜんとするウェディング。


ただ見つめ合う二人だったが、次の瞬間にこの研究施設に大爆発が起こった。


「ウェディングッ! 作戦は成功したッ! あとはここから脱出するだけだッ!」


遠くからライティングの叫び声が聞こえてきた。


どうやらウェディングがローズと戦っている間に、ライティングは研究施設内にいた仲間たちを救出することに成功したようだ。


そして先ほどの爆発は、陸上戦艦の地下にあるこの施設の壁を破壊して、外へと繋がる大きな穴を開けるためだった。


開いた穴からは凄まじい風が入り込み、そこから唸るようなエンジン音が聞こえてくる。


ライティングが用意した大型陸上艇が、開いた穴から強引に入って来たのだ。


操縦は遠隔操作――または自動操縦にしてあるようで、大型陸上艇に付いたアームが、ライティングが助けた仲間たちを回収していく。


「急ぐんだ! もうこんなところに用はないッ!」


ライティングが叫びながらウェディングのもとへと飛んで来る。


ローズはそんな彼を見て嬉しそうに笑う。


「ライティング、私は嬉しいぞ。お前はノピアの犬をやめ、自分の愛する者のためにこのような大それたことを仕掛けてきたのだからな」


「いきなり何を言ってるんだ?」


「お前もだ。お前もウェディングと共に私のもとへ来い。お前たちにはその資格がある。その深い愛こそ、私がもっとも敬意を払うものだからな」


「ふざけたことを……。ボクがそんなマネをするはずないだろうッ!」


「ならばどうするつもりだ? この後で、お前たちは確実に世界から目の敵にされるんだぞ」


ローズはライティングとウェディングに話し始めた。


この戦争が終わった後――。


各国はその混乱の原因に、ストリング帝国、オルタナティブ·オーダー、エレクトロハーモニー社を糾弾きゅうだんするだろうと。


「大災害やエレメント·ガーディアンのことに関していえば、永遠なる破滅エターナル ルーインの教祖イード·レイヴェンスクロフトをさばくことで片付いたとしても、それにじょうじて必要以上に戦乱を広げた戦犯として、世界は我々を罪人に仕立てて処分するだろうな」


ローズの言葉に、ライティングは顔をしかめた。


どうやら彼は、彼女に言われるまでもなくそのことをさっしていたようだ。


そして、傍にいたウェディングは未だに唖然あぜんとしているだけだった。


「私ではなくジャズ·スクワイアにでも助けてもらうか? 残念だがそれは無理だ。たとえ、今回のことで世界中に影響を与えた人物だとしても、所詮は人間一人の想い……。国や世界などという怪物をコントロールすることなど不可能だ」


「でも……ジャズ姉さんなら……」


弱々しく言ったウェディングに、ローズは首を左右に振る。


「なら、どうして前の戦争――アフタークロエは起きたのだ? 英雄と呼ばれ、世界中から救世主といわれたアン·テネシーグレッチでも止められなかったのだぞ?」


ウェディングは何も答えない。


それはライティングも同じだった。


人間一人の想いでは、世界をどうすることもできない――。


それは、歴史がそれを証明していたからだった。


「ここまで話せば理解してもらえただろう。わざわざ私がここで待っていたのも、すべてはお前たちと手を結ぶためだったと」


ローズはライティングとウェディングへ、再びその手を伸ばす。


「お前たちは私と来い。共通の敵をすべて蹴散けちらし、その後に世界のことを共に考えようではないか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る