#791

――陸上戦艦ボブレンでは、交代で周囲を見張っているストリング帝国の将校が艦橋かんきょうから月を見ていた。


その将校の名はアバロン·ゼマティス。


一兵卒からローズ·テネシーグレッチ将軍の親衛隊に選ばれ、尉官いかん――少尉の地位となった者だ。


彼は今世界を騒がせている動画の人物――。


元ストリング帝国軍中尉であるジャズ·スクワイアと、軍学校で同期だった少年だ。


「おいアバロン。例の動画見たか?」


「なんか凄いことになっちゃってるね」


艦橋の窓からから月を見ていたアバロンに、同期である少年コーダ·スペクターと人懐っこそうな少女ネア·カノウプスが声をかけてきた。


二人もまたアバロンと同じく、一兵卒からローズ·テネシーグレッチ将軍の親衛隊に選ばれ、少尉となった将校だ。


「お前たち、たしか日勤だっただろう? どうしてこんな時間まで起きているんだ。早くとこけ。休むのも我々の仕事だぞ」


「そう固いことを言うなって。それよりもどうなんだ? 見たのかよ?」


コーダがアバロンの肩に、自分の手を回してまた同じ質問をした。


アバロンは彼の馴れ馴れしい態度に、不快感を隠さずに顔に出していたが、離れろとは言わずにいた。


「確認はした。それと各国の反応も聞いている。このままだと冷戦に突入だな」


「あの女、ホント面倒くさいことやりやがるよな。こっちはオルタナティブ·オーダーの奴らを、今すぐぶっ殺したくてしょうがねぇってのによ」


「汚い言葉は気に入らんが、お前の気持ちはわかる。特に、スピリッツ少佐とセティ大尉の命をうばったあの舞う宝石ダンシング ダイヤモンドだけは許せん」


そんな二人のやり取りを見て、ネアがニヤニヤと嬉しそうに笑みを浮かべている。


そして、彼女はその身を震わせると突然二人に飛びついた。


「おいネアッ!? いきなりなにしやがるッ!?」


「くッ!? お前もコーダもどうしてそうくっ付きたがるんだッ!?」


「いいじゃないいいじゃないッ! こうやってやらしい感じで盛り上がればいいじゃないッ!」


鼻と口から荒い息を吐き出しながら言うネアに、アバロンもコーダも激しく引く。


いつものことなのだが、どうも彼女のテンションや態度についていけないようだ。


「それと、舞う宝石ダンシング ダイヤモンドは“私たち”でるんだよ。一人じゃ確実にあの女を仕留められない」


だがネアが冷静にそう二人に呟くと、アバロンもコーダも彼女の肩を抱き返していた。

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