#784

ブレイクは声を張り上げ続ける。


「あぁ……そうだよッ! オレはあいつに……ミックスに憧れたッ! メディスンみてぇになりてぇと思ったッ! ヴィクトリアが言ってくれたことが嬉しかったッ!」


返事はない。


ただ彼の傷ついた獣が咆哮ほうこうするような声だけが、薄暗い空間にひびき渡る。


「だけどムリだったんだよッ! オレは弱い自分を必死に誤魔化ごまかして……。ただ人を斬ることしかできないクズ野郎なんだよッ!」


だが、それでも周囲の風景は変わった。


そして変化し続けた。


暗部組織ビザールのメンバーとして、ジャガー·スクワイアやリーディン、他の特殊能力者の少年少女ら共に任務をこなしていた日々――。


生物血清バイオロジカルとの闇組織同士での抗争――。


未来から来た女性――ミウム·グラッドストーンとの邂逅かいこう――。


世界中の人間を管理しようとしていたサーベイランス·ゴートとの戦い――。


そして、永遠なる破滅エターナル ルーイン襲撃時での防衛線――。


ブレイクの叫びもむなしく、彼に見せつけるように過去の景色は変化していく。


「もう……やめてくれ……。こんなもん見せたって……オレがクズなのはなにも変わらねぇんだ……」


喉が擦り切れるほど叫び続けたせいか、ブレイクの発する声は弱々しく枯れていた。


その表情は放心状態ではなく、自分の罪や恥、見栄や虚勢きょせいに直面させられたため、止まらぬ涙でゆがまされている。


周囲の空間が、元いた薄暗い空間へと戻ると、そこに二匹の犬が現れた。


雪のような真っ白な毛をした犬と、漆黒しっこくに染められた鉄を思い出させる毛を持つ犬。


それは、かつてクリア·ベルサウンドに加護を与え、そしてその子であるブレイクとクリーンを見守ってきた精霊――神具でもある小雪リトル スノー小鉄リトル スティールだった。


「お前たち……」


ブレイクがリトルたちの姿に気が付くと、二匹が同時に鳴いて返す。


すると、ブレイクの頭の中に声が聞こえてきた。


《久しぶりですね、ブレイク》


《こうやってお前に話しかけるのはこれが初めてだったな》


ブレイクは驚愕する。


目の前にいる小雪リトル スノー小鉄リトル スティールが鳴くと、自分の頭の中に声が聞こえてくるのだ。


これまでもリトルたちと意思の疎通そつうはできていたが、先ほど小鉄リトル スティールが言ったように、こうやって言葉をかけてもらうのは初めてのことだった。


リトルたちは、両目を見開いて言葉を失っているブレイクに声をかける。


《あなたがここで終わるのもいいでしょう……。それほどまでに、これまでの道はとても険しかったのですから……》


《あぁ……。だが、これまでの過去を見て……。それでもお前はここで終われるのか?》

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