#780

「ちげぇんだよ……。オレは誰も殺したくなんかなかった……。クリーンと一緒に静かに暮らせればそれでよかったんだよッ!」


さらにちぢこまって泣き叫ぶブレイク。


そこへ聞き覚えのある声が耳に入って来る。


「いや、お前は楽しんでいた。私は見ていたぞ」


ブレイクは聞こえてくるはずのない声を聞き、思わず顔を上げてしまう。


「テメェは……ラムブリオン……?」


そこにはブレイクの故郷の脅し、彼らをバイオニクス共和国へと連れて行こうとした男――ラムブリオン·グレイの姿があった。


泣き顔のブレイクに、ラムブリオンは言葉を続ける。


「お前は血を見るのが好きなただの人斬りだ」


「ちげぇ……。ちげぇちげぇちげぇッ! オレは妹を……クリーンを助けたくてッ!」


「ほう、妹のせいにするのか? 故郷の連中は自分たちの保身のために、妹を差し出そうとした。だから殺した、そうお前は言うんだな?」


「せいになんかしてねぇよッ!」


冷たく話し続けるラムブリオンは、再び両手を耳に当ててうずくまるブレイクをさらに追い詰めていく。


地べたを見ていても、お前が人殺しであることは何もかわらない。


いい加減に、自分が人殺しだと認めたらどうだと。


「いいか、ブレイク。お前は“しょうがなかった”“妹を守るためだった”と言いながらも刀を振るい、自分の弱さを隠すために毎日休まず己を鍛え続けた。ついにはハザードクラスに選ばれるまでに、知力体力ともに優秀な人間だと世界に証明した。だがそれは、自分の罪を、大量虐殺した事実を忘れたかっただけだ」


ブレイクはもう何も言い返さない。


くろがねなどと呼ばれ、狂人ぶっていれば自分の弱さを隠せると思っていたお前だったが。それでも、罪の意識は消えることなく、両目の光を失っても一心不乱に剣を振るい続けた」


地面に身を縮めて激しく震えている。


「人助けをしているつもりか? 世界を救っているつもりか? 狂人ぶるのをやめてもお前は何一つ変わっちゃいない。英雄と人殺しをはき違えるな!」


ラムブリオンは声を張り上げると、地面に屈っしてブツブツとうめいているブレイクへ近づき、彼を見下ろす。


「そもそもお前は本当に妹を守りたかったのか? クリーン·ベルサウンドはもう死んだ。それで、お前がまだ剣を振るう理由はどこにある?」


妹の死という言葉に反応したのか。


ブレイクはガバッと立ち上がると、ラムブリオンに喰ってかかろうとする。


そのときの彼の顔は普段の涼しげな表情とは、まるで別人のように酷いものだった。


涙と鼻水で顔はグシャグシャになっており、大声を出してはいるものの弱々しく情けない。


「オレは……あいつの……。クリーンの想いを引き継いで……。ただ世界を良くしたいだけだッ! だから……あいつの死を受け入れて……ミウムや……メイカ……。それに、ジャズ……たちにオレの力が必要だと思ってッ!」


「違うだろ」


「ちがわねぇッ! ただ力になりたいってだけで剣を振っちゃいけねぇのかよぉぉぉッ!」


「違うだろうがッ!」


ラムブリオンは、立ち上がったブレイクに突き飛ばした。


軽く小突いただけに見えたが、ブレイクは簡単に地面に腰を落とす。


そして、そんな彼を見下ろしながら、ラムブリオン言う。


「お前はただ人を斬りたいだけのクズ野郎だ。お前はな、もっともらしいことを自分に言い聞かせて、罪悪感に押し潰されたくないだけなんだよ」


その言葉を聞いたブレイクは、もはや泣き喚くことも止めて放心状態となってしまった。


ただ焦点の合わない目と虚ろな表情で、ラムブリオンのほうを見ているだけだ。


「前から自分のことをクズだと言っていたじゃないか。まあ、ミックス·ストリングとの出会いから、少しずつ善良であろうとした今のお前には酷な話だったか」


そしてラムブリオンは、そんな白髪の少年を哀れそうに見つめるのだった。

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