#734

イードは今に電磁波で顔面を焼かれそうだというのに、ジャズを見て笑みを浮かべる。


「ジャズ·スクワイア……。まさかお前が生きていたとはな……」


相手をからかうような余裕の笑み。


ジャズはそんなイードに苛立ちながらも、冷静に言葉を返す。


「あなたがそう思うのも無理ないよね。なんたってあたしは、何の能力も持たない弱い人間なんだから」


「では、どうやって生き延びたのだ?」


「……家族や友人のおかげだよ。それよりも、質問したいのはあたしたちのほう。いい? これから訊くことに正直に答えて」


イードはジャズの言葉にうなづくと、一つだけ条件があると口にした。


この状況で交渉できると思っているイードに、その場にいたエンポリ以外の全員が狼狽うろたえる。


正気なのかと、皆が息を飲む。


そんな雰囲気の中、サーベイランスがイードに向かって口を開いた。


「まずはその条件とやらを言ってみろ。内容次第では聞いてやる」


「おいおい、こんな奴の言うことを聞いてやる必要はねぇだろ?」


エンポリを床に押さえつけながら、ラヴヘイトが不満そうに言うと、サーベイランスが答える。


「聞いてやったほうがこいつも喋りやすいだろう。ほら、さっさとその条件を言ってみろ」


サーベイランスはイードに近づくと、少し発する声を強くした。


だが、イードの顔からは余裕は消えず、まるで自分が優位な立場にいるかのように言う。


「そこにいる私の弟子……エンポリ·アルマーの命だ。彼に手を出さなければ質問に答えよう。もちろん、私が答えられないことを訊かれても、答えられないものは答えられないと理解してほしい」


「いいだろう。だが、少しでもお前の弟子が暴れたら殺す。それと、お前が嘘を言っているとこちらが判断した場合も殺す」


「交渉成立だな。エンポリ、話は聞いていただろう。お前は静かにしているのだ」


サーベイランスが条件を飲み、それに自分の言葉を付け加えると、イードは受け入れてエンポリに大人しくするように言った。


エンポリは納得していないようだったが、それから喚かなくなった。


「では、早速質問させてもらうぞ。お前が行った儀式……この大災害とエレメント·ガーディアンを止める方法はあるのか?」


サーベイランスは静かに訊ねた。


訊ねられたイードは両目をつぶると、大きく深呼吸してから答えた。


神具の暴走の影響は、止められないことはないと。


それを聞いたジャズはギッとイードをにらみつける。


「止められないことはない? ずいぶん遠回しな言い方ね」


「おい、止めろ」


インストガンの銃口をイードの顔に押し付けたジャズのことを、サーベイランスが止める。


「あんたも儀式の影響で犠牲を払ったみたいだけど。こんなところで満足そうに暮らして……」


「止めろ」


「あんたのせいで……一体どれだけの人がッ!」


「止めろッ!」


サーベイランスは、今にもイードへ手を出そうとしているジャズのことを止めに入った。


ジャズは銃口こそイードの顔から離したが、その表情は強張ったままだった。

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