#731

その後、外のジープにいたニコとソウルミューを呼び出し、ミウムとメイカのことを見てもらうことにして、ジャズたちはイード·レイヴェンスクロフトがいる果実園、田園でんえんへと向かうことになった。


反対していたサーベイランスだったが、イードが両腕を失ったと聞き、ジャズたちが戦うことを受け入れたようだ。


イードを含め、メイカなど時の領地タイム テリトリーで育った者らは、生命エネルギーであるオーラを操る技術を持つ。


ラヴヘイトが知っている話によると、主にその力はてのひらから発せられるようで、神具の暴走の影響で両腕を失っているイードはほぼ再起不能。


これならば勝てると、サーベイランスは納得したのだった。


ジープを操縦するジャズ。


助手席にはブレイク。


後部座席にはブライダルとラヴヘイト、さらにサーベイランスが二人の間に座っている。


「ブレイク……。大事なことを言いそびれていたんだけど……」


ジャズはハンドルを握りながら、気まずそうにブレイクへ声をかけた。


彼女が伝えようとしていることは、ブレイクの妹であるクリーン·ベルサウンドが死んでしまったことだ。


ジャズは自分を守るために、ストリング帝国軍の追撃を食い止め、そしてローズ·テネシーグレッチに殺されてしまった大事な後輩であったクリーンのことを、ブレイクと会ったときから話さねばと思っていた。


そして、車の移動中で隣にブレイクが座ったことで、ようやく言い出す機会ができたのだが。


「実は……クリーンが……」


「あぁ、わかってる。殺されたんだろ」


「えッ……?」


ジャズはブレイクの返事に言葉を失った。


それは、知るはずのないことを彼が知っていたからだった。


「ブレイクあんた……どうしてそのことを知ってるの?」


「バカなことを言っているように聞こえるだろうが、あいつの声が聞こえたんだ。多分だが、リトルたち神具でオレたち兄妹が繋がっていたからだろうな」


ブレイクとクリーン――ベルサウンド兄妹は、それぞれ小雪リトル スノー小鉄リトル スティールという妖犬――日本刀へ変化する神具を扱っていた。


奇跡人スーパーナチュラルとしては、一人一つの神具が当たり前だが、ベルサウンド兄妹はその両方を互いに使用できていた。


それは、ヴィンテージであった亡き母――クリア·ベルサウンドの残した奇跡だと思われる。


「……クリーンは……あの子はあたしのために……」


自惚うぬぼれてんじゃねぇぞ。あと、しっかり前を見ろ」


ジャズはハッと我に返ると言われた通りに前を見た。


ブレイクはそんな彼女に言葉を続ける。


「あいつは自分の意志で戦ったんだ。そこにテメェの感情を挟むんじゃねぇ」


「ブレイク……」


「オレたちにできることは、あいつの死をムダにしねぇことだ。そのためにも、テメェはテメェのできることをしろ。クリーンもそいつを望んでる」


「……そうだね。うん、ありがとうブレイク」


ジャズに礼を言われたブレイクは、ケッと言葉を吐くと窓の外を眺めた。


そのときジャズが見た彼の横顔は、妹を失った兄の悲しさを感じさせるものだった。

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