#728

ブライダルは背を向けているミウムに声をかけたが、彼女から返事はない。


ブライダルたちがこの場に来たときと同じように、腰を下ろして地面に両手をつけているだけだ。


反応がないミウムに、ブライダルはさらに近づいていく。


「なに無視してんの? もしかして実はあんたも、神具を使ってました~そのせいで耳が聞こえません~……ってこと? んなわけないよね~。だって、あんたは神具のない未来から来たんだもん」


ミウムは答えない。


「お~い、ルーツ。あんたまで無視してじゃないよ。あれ? ひょっとして私が何かあんたら悪いことでもした? 覚えがあり過ぎてなんなのかわかんないんだけどぉ。それだったら全身全霊で謝るからさ~。いい加減に無視しないでよ~」


ブライダルは、普段のおちゃらけた態度で話しかけ続けていたが、その顔は笑っていなかった。


その顔を見るに、彼女がいつまでも返事をしないミウムに苛立っていることがわかる。


「ミウムッ! なんか喋ってよッ!」


「ムダだ。今のミウムは何も答えねぇよ」


ついに声を張り上げたブライダルに、ブレイクが声をかけた。


それから彼はブライダルだけではなく、ジャズやサーベイランスにも説明を始める。


ブレイクはイードとの戦いの後――。


気が付くとミウムに担がれていた。


どうやらミウムはバイオニクス共和国が崩壊した後に、偶然ブレイクを見つけることができたらしい。


そして、それから荒野を彷徨さまよっていた幼児退行ようじたいこうしたメイカを連れたラヴヘイトと合流。


その後、ミウムの案で四人はこの洞窟に身を隠すことになる。


その理由は、何故かこの洞窟には、エレメント·ガーディアンが近寄って来ないからだったようだ。


「その後だ。ミウムのヤツはろくに説明することせずに、突然ここに座ったまま動かなくなっちまった」


「ろくにってことは、なんか言っていたことはあるんでしょ?」


「あぁ、世界の混乱を抑えるためとかなんとかよくわかんねぇことを言ってた。多分だが、ミウムにはそういう力があるんだろうな」


「じゃあ、この女ターミネーターはずっとこのままわけッ!? そんなのまるでうしおのお母さんじゃないかッ!?」


「うしおって誰だよ……。しかもお母さんって……。でもまあ、オレが思うに。自分が話せないってだけで、こっちの会話は聞こえてんじゃねぇか」


ブレイクのその言葉を聞いたブライダルは、再びミウムのほうへと近づいていった。


そして、座っている彼女の正面へと回り込り、かがんで視線を合わせようとする。


「じゃあ、言わせもらおうか。おいミウム。私が絶対にこの状態から助けてあげるからね」


ブライダルがそう言うと、洞窟内の雰囲気が暖かいものへと変わった。


(意外だな。まさか奴があんなことを言うとは……)


このヤシの実のような髪型をした傭兵少女は快楽主義者で、およそ人間が持つ情などないと思っていたサーベイランスも、彼女の言葉に少々驚いている。


だが、それはすぐにくつがえることになる。


「あんたからまだ報酬もらってないからねッ! このまま逃げられてたまるかってのッ!」


「あぁ……やはり奴は奴だ……」


サーベイランスは、何があろうがブライダルはブライダルのままなのだと、改めて思うのだった。

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