番外編 成し遂げた男
緑に
半分長髪の半分スキンヘッドで左右対称の髪型――ずいぶんと個性的なヘアスタイルの青年だ。
「よし、今回はうまく育ったな」
青年の名はエンポリ·アルマー。
かつて人類を滅ぼそうとしたコンピュータークロエを崇める宗教団体――。
イード·レイヴェンスクロフトが創立した
エンポリは実った果実を手に取り、背負っていた籠へと入れていく。
赤や黄などの鮮やかな実が籠の中を埋めていき、彼のその微笑みを見るに、苦労して育ててきたことがわかる。
「次は野菜だな」
それから彼は、その果実園の近くにある畑の野菜も収穫し始めていた。
取った果実の上から野菜を放り込み、果実園と野菜畑を後にする。
エンポリが菜園の側にあった小屋に入ると、そこには二メートルを超える筋骨隆々の男性がいた。
「イード様。見てくださいよ。ほら、今回のはイイ感じでしたよ」
イードと呼ばれた男はエンポリを見ると、彼の掲げた果実や野菜を見る。
だが、手に取らなかった。
それは、イードには両腕がなかったからだ。
「うん、素晴らしいな」
「でしょ! 無農薬って難しかな~と思ったけど。このところはイイ感じですよね~」
エンポリはまるで子供のような笑みを見せると、収穫した果実と野菜を流し台に運んで洗い始めた。
イードに褒めてもらったのが嬉しいのか、鼻歌を口ずさみながら楽しそうに果実と野菜についた泥や土を洗い流していく。
「すぐに朝ごはんの用意しますかね~。ちょっと待っててください」
「あぁ……」
イードはそう返事をすると、部屋の奥へと戻って床に腰を下ろした。
顔は
残った頭髪もところどころに白い毛が生えている。
その老いさらばえた姿に、以前のテロ宗教教祖としての威圧感はすでにない。
だがその顔には、すべてをやり切った男の満足感で
彼の願いはただ一つ。
この
争いに次ぐ争いで荒廃したこの世界を救おうとしていたのだ。
そして、神具を暴走させる儀式を行い、その願いは果たされた。
儀式は完全ではなかったが、今や世界にはエレメント·ガーディアンと呼ばれる化け物が文明機器にとり
このままいけば、
自分を含めまだまだしぶとく生きている者は多いが、それも時間の問題だ。
「できましたよ~、イード様ッ!」
エンポリが料理を運んで来る。
米と野菜が入ったまるで精進料理のようなスープだ。
当然イードには両手がないので、エンポリが彼に食べさす。
「どうですか? 美味しいですか? イード様」
「あぁ、美味しいよ」
「ホントですかッ!? やった~!」
嬉しそうにはしゃぐ弟子――エンポリを見て、笑みを浮かべるイード。
それから食後――。
イードは小屋から出て、黒い雲が
「シンは外か……。記憶を失ったことで親子に戻れるとは……これも運命か……」
ここにはもう一人の若い男がいた。
それは、イードの息子であるシン·レイヴェンスクロフトだ。
イードが神具の暴走よって両腕を失ったように、シンは今までの記憶を無くしていた。
かつて殺し合いをした親子だったが、今は一緒に暮らしているようだ。
「あとは世界が再生するまで……見届けるまで……。私が生きていられるかだな……」
イードがそう呟くと雷と共に豪雨が始まる。
激しい雨に打たれながらも、イードは空を眺め続けていた。
あとは待つのみ――。
そう、思いながら。
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