#723

――ジャズがブレイクと顔を突き合わせてから数時間後。


アン·テネシーグレッチは数人の兵と共に、小さな町や村を襲っていた黒い光――エレメント·ガーディアンの駆逐くちくしていた。


もちろんそれは、かつて暴走したコンピューターから世界を救った英雄――ヴィンテージとしての彼女の名を隠しての行動だった。


表向きでは、ジャズ·スクワイアから指示を受けて動いていると言い、自分の名は名乗らない。


当然アンと共にエレメント·ガーディアンと戦っている者たちは知っているが。


それぞれ文化的に遅れた国の出身だったため、あまりアンのことを神格化して扱ったりはしなかった。


「アン隊長。サーベイランスから音声で返信が来ていたようです」


エレメント·ガーディアン撃退後。


帰りの車内で兵の一人にそう言われたアンは、了解と返事をするとワイヤレスのイヤホンを耳に装着する。


彼女の耳にサーベイランスの声が流れる。


《報告ご苦労。こちらもようやくオルゴー王国を出られた。それで、ストリング帝国とオルタナティブ·オーダーの決戦は近いということだが……。それと同じくらい重要な情報を聞いた……。まあ、あとは本人から聞いてくれ》


サーベイランスの声が途切れると、そこから聞こえてくる声が切り替わる。


《初めましてだな。アン·テネシーグレッチ……》


若い男――少年の声だ。


当然アンは違和感を覚える。


たしかジャズと一緒にいたのは、ブライダルという少女とサーベイランス、あとは電気仕掛けの仔羊ニコだけのはず。


となると、メディスンが言っていた世界混乱前の彼女の仲間と会えたのか。


そう思いながら少年の声に耳をかたむけていた。


《オレはブレイク·ベルサウンド……。クリア·ベルサウンドの息子だ》


アンは少年の名を聞いて驚く。


それが少年が、彼女と同じヴィンテージであり、共にかつて世界を救った女剣士――クリアの息子だと名乗ったからだ。


少年は話を続ける。


《あんたにはいろいろ言いたいことがあるが、余計なことは言わずに話すぜ。実は、イード·レイヴェンスクロフトの居場所がわかったんだ》


イード·レイヴェンスクロフト――。


かつて人類を滅ぼそうとしたコンピュータークロエを崇める宗教団体――永遠なる破滅エターナル ルーインの教祖の名だ。


イードが起こした儀式――神具の暴走によって現在の世界には、大災害や黒い光の化け物エレメント·ガーディアンが現れた。


その元凶というべき男が、どこにいるのかを知ったとブレイクは言う。


《オレはこれから仲間のところに、ジャズ·スクワイアたちを連れて行くつもりだ。あんたの力を借りるかの判断はこいつらに任させるが、一応伝えといたほうが良さそうだって言うんで話させてもらった。それじゃ、サーベイランスに変わるぜ》


そこからブレイクの声は消え、サーベイランスの声へと戻る。


《ブレイク·ベルサウンドの話は以上だ。まだこちらの話は決まっていないが、私の考えではお前の力を借りるべきだと思っている。覚悟しておいてくれ》


そして、そこで音声は切れた。


アンはワイヤレスのイヤホンを耳から外すと、その両目をつぶった。


「……イード·レイヴェンスクロフト。帝国とオルタナティブ·オーダーの戦いも近いというに、これはまた厄介な案件だな……」


そして、それからアンは通信デバイスを使って、メディスンらにこの話を伝えた。

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