#683

――その後、ジャズはブライダルと共にオルタナティブ·オーダーの駐留ちゅうりゅうしている町へと戻った。


そこでは各機Nano Muff Personal Insight(ナノ マフ パーソナル インサイト)通称ナノマフPIが動き出しており、慌ただしい雰囲気だった。


オートバイを停めると、ジャズとブライダルのところへメモライズが走って来る。


「よかった! あんたら無事だったんだね!」


嬉しそうに言うメモライズから、二人は状況を聞く。


これからライティングが、エレメント·ガーディアンの集団を殲滅しに再びマシン部隊を引き連れて再び戦場へとおもむく。


マシン部隊の他には、トランスクライブが指揮するジープに乗った歩兵部隊も従軍じゅうぐん


それは、もしものとき――またナノマフPIがエレメント·ガーディアンに取りかれた場合のためだ。


「じゃあ、あそこにいるエレメント·ガーディアンの集団のことはライティングたちに任せて大丈夫ね」


「てゆーかあんたッ! ライティングに聞いたよッ! たった一人でエレメント·ガーディアンと戦ってたんでしょッ!? なんてムチャすんのよッ!」


自身の赤毛を振り回し、わめき始めたメモライズを見て、ブライダルが二ヒヒと笑っている。


だが、メモライズの怒鳴り声は彼女にも向けられた。


「あんたもあんただよ!勝手に人のバイク取って飛び出して行くなんて! いくらあんたが不死身の傭兵だからってね! ムチャなことすんなッ!」


「はいはい、心配ありがとね~。でも大丈夫だったでしょ? 二ヒヒ、私らには主人公補正があるからどんな危ない状況でも助かっちゃうんだな~これが」


「意味わかんないこと言ってんじゃねぇッ! ……ホント、心配したんだから……」


喚いていたと思えば、突然しおらしくなるメモライズ。


そんな彼女の姿にさすがのブライダルもそれ以上もう軽口を叩かなかった。


それからジャズとブライダルは、メモライズに連れられて食事をすることに。


「ジャズ姉さん、私のブライダル特製タコスを味わってよ」


どうやらブライダルは、オートバイで飛び出す前に料理を作り終えていたようだ。


材料は普段と違ったものを使ったようだが、オリジナルに近い味に仕上げたと言う。


「生地は小麦だし、肉も鶏肉だけだけど、我ながらなかなかの自信作だよ」


ブライダルはその小柄には違和感のある豊かな胸を張って、実に得意気だ。


そして、町の外に用意されたテーブルの前に着くと、子供たちに囲まれたサーベイランスとニコの姿があった。


「お前たち……。私に黙ってまた無茶をしたらしいな」


サーベイランスと同意しているのか、ニコも鳴く。


先ほどほど揉みくちゃにこそされていないが、子供たちはまだまだサーベイランスとニコから離れていないようだ。


「そういうあんたとニコは大人気じゃない。いやいやモテモテでうらやましいかぎりだね~」


ブライダルの言葉に、サーベイランスとニコは呆れてその肩を落としている。


「これが人気者だと……? 玩具の間違いだろう……」


力なく呟いたサーベイランスに返事をするように、ニコもメェーと弱々しく鳴いた。


そんな二体を見たジャズは、クスッと笑みを浮かべると、メモライズや子供たちと一緒にテーブルに並んでいる料理に手をつけるのだった。


「辛ッ!? ブライダル! これちょっと辛すぎじゃないのッ!?」


「あれ? 姉さんって辛いのダメな人だったの? でもさ~それでもだいぶ抑えてるんだどね~」


「いや、辛すぎだって」


「そう? みんな普通に食べてるよ~」


「へッ?」


ジャズが周りを見ると、メモライズも子供たちも皆美味しそうにタコスとスープを食べていた。


喚くジャズの姿を見て、一人の子供が笑うと、その場にいる全員が笑い始めた。


「いや、笑いごとじゃなくて……ホントに辛いんですけど……」


ジャズはポツリとそう言ったが、皆の笑い声でかき消されてしまった。

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