#670
ラムズヘッドが訊ねると、ジャズもライティングのほうを見た。
ライティングは表情を強張らすと、ジャズのことを見つめる。
「ジャズ、まさか君はストリング帝国と戦わずに済むと思っているのか?」
「そうだよライティング。こちらが戦えると向こうがわかれば、無駄な争いをせずに話し合いに、和平交渉ができるはずだよ」
ジャズはオルタナティブ·オーダーがゲリラ的な戦闘ではなく十分に戦える組織だとわかれば、ローズも交渉を考えるだろうと言った。
それに、こちらには彼女と同格――ヴィンテージのアン·テネシーグレッチがいるのだ。
向こうとしても国力の削り合いなどしたくないはずだと、ライティングに説明した。
だが、ライティングの表情は変わらない。
ジャズの話を聞いた彼は、表情を強張らせたままだ。
「ジャガーやクリーンを殺されたんだ。それでも……君はまだ帝国と話を合いをするつもりなのか?」
「わかる、わかってるよッ! でも、二人だって自分のために戦争なんてしてほしくないって思ってる! ジャガーとクリーンをよく知るあなたなら、それがわかるでしょッ!? それにローズ将軍が……帝国がやっていることにも理由があるんだよ!」
ジャズはそれからさらに説明を始めた。
帝国が各国を
それは、混乱した世界を
「それに、ミックスも……機械化しちゃっているんだよ。だから、ただ野心のためだけに帝国が戦ってないのなら、話し合いの余地はあるでしょ?」
「それでも……帝国の犯した罪は許されない」
ライティングは静かにジャズへ言う。
世界はバイオニクス共和国の統制を失い、各国が我先にと武力行使を始めた。
それを抑えようと帝国が動いたことは理解できる。
混乱した世界に秩序をもたらそうとしたことはわかる。
だが、それでもローズ将軍はやり過ぎだ。
今やほとんどの国が焼け野原となった。
それはその国が帝国に従わなかったからだ。
「帝国がしたことはけして許されるものじゃないんだ。帝国に滅ぼされた国の住民は我を失い、こうしている間にも弱い者たちが
「違うッ! 違うよライティングッ! ノピア将軍はいつも世界のことを考えていたッ! もしあの人がいても戦争なんて望まないよッ! ノピア将軍なら人間同士で争っている場合じゃないと言って、エレメント·ガーディアンの問題に向き合って、一刻も早く争いをやめて世界の秩序を取り戻すはずだよ 」
ライティングとジャズの話し合いが、帝国のことになった途端に平行線となった。
それまでの和やかな雰囲気がまるで嘘のように、張り詰めた空気に覆い尽くされている。
しばらくすると、その静まり返った場の沈黙、が突然聞こえてきた声によって破られた。
「ライティングさんッ! ストリング帝国の襲撃ですッ!」
部屋に駆け込んできた少年の叫び声を聞き、ラムズヘッドが笑みを浮かべる。
「丁度いい。早速持ってきたものが役立ちそうだ」
ライティングはラムズヘッドに頷くと、彼と共に部屋を出て行こうとする。
「待ってよライティングッ!」
「話は後にしよう。今は急いで敵を迎撃しないとね」
そして、彼はそのままジャズを残して出て行ってしまった。
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