#666

――その頃、トランスクライブに連れて行かれたブライダルたちは炊事場すいじばへとやって来ていた。


かまどやテーブルが見え、まだ洗っていない皿でいっぱいになった洗い場の横には、おそらく朝食で使用したと思われる食器が積まれている。


「まさか……私に皿洗いをやらそうっての?」


辟易へきえきとした顔で言うブライダル。


そんな彼女にトランスクライブはニカッと歯を見せると、二人の背後からメモライズがヒョイッと現れる。


「さあ、早くやるわよ。もうすぐお昼だしね」


「つーわけだ。手伝ってくれよ、ブライダル」


「しまった……。タコス作りのことばかり考えていて、こうなることを予想できなかった……。あぁッ! 炊事場ってだけでこうなるのはわかっていたはずなのにッ!」


両手で頭を抱えているブライダルに、サーベイランスが言う。


「だから私はあの場に残りたいと言ったのだ。しかし、まさか皿洗いとは……」


「あんたとニコは違うよ。別の仕事をしてもらう」


「なに? 私とニコだと……?」


サーベイランスがメモライズに疑問の言葉を投げかけると、ニコもその隣で首をかしげていた。


そのときだった。


突然サーベイランスとニコの身体に無数の手が伸びてきた。


「な、なんだッ!? くッ!? お前たちまさか私を捕らえるつもりでここにッ!?」


慌てるサーベイランスと共にニコも大きく鳴いている。


そんな機械人形とニコを見て、トランスクライブとメモライズが不気味に笑っていた。


「フフフ、言ったろ? あんたたちには別の仕事があるって」


メモライズがそう言うと、サーベイランスとニコは自分たちを持ち上げている者たちが誰なのか気が付いた。


それは、まだ幼い子供たちだった。


男の子たちはサーベイランスの三本指の手足を乱暴に動かし、女の子たちはニコの豊かな毛に頬ずりしている。


嬉しそうにしている子供たちを見て、トランスクライブが口を開く。


「いやーいいとこに来てたぜ。ここにはガキが喜ぶようなもんがなくてよ。お前らならちょうどいいなって思ってな」


「なんだとッ!? では捕まえるわけではない……? うッ!? おいやめろッ! 私は玩具おもちゃじゃないぞッ!? コラッ! そんな無理矢理手を引っ張るなッ!」


叫ぶサーベイランスだったが、そのまま男の子たちに連れて行かれてしまった。


そしてそれはニコも同様で、電気羊は女の子らによって連れ去られていく。


それを見ていたブライダルが、二体の仲間に向かって手を振ると両手の手の平を合わせておがんでいた。


「さらばサーベイランスとニコ……。まあ、あの子らが飽きたら解放してもらえるだろう」


「よし、じゃあこっちは皿洗いだ」


「あぁ……これじゃ順番が逆だよぉ。普通は作って食べて洗い物なのに……」


「ブツブツ言わないの。早く洗わないとお昼に間に合わないよ」


不満そうなブライダルに、トランスクライブとメモライズが発破をかけ、彼女はなくなく積み上げられていた食器を洗い始めるのだった。

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