#662
それからジャズたちを乗せたジープは走り――。
ライティングがいると場所へと向かう。
その移動中、ジャズはメモライズから彼女たちがストリング帝国壊滅後にどうしていたかを聞き、代わりにこれまで自分にあったことを伝える。
「そう……ブロード大佐は亡くなったんだ。それに……クリーンも……」
ジャズの叔父であるブロード·フェンダーの死。
さらに、帝国からの追撃をからジャズたちを守るため、クリーン·ベルサウンドが殺されたことを知ったメモライズは、それから言葉数が減る。
それはクリーンが帝国にいたときに――。
メモライズ――ノピア派の者たちや、クリーンと同じく帝国にいたプロコラットとユダーティ二人と親交を深めていたからだった。
「メモライズ……。それで、オルタナティブ·オーダーのことなんだけど……」
「ああ、それはライティングから聞いて。ウチじゃ難しいことは説明できないからさ」
メモライズにそう言われたジャズは、それ以上何も訊かなかった。
それを見たサーベイランスがメモライズのことをじっと見ていると、ブライダルが口を開く。
「じゃあネコ目の姉さんに私からもしつも~ん」
「ねえ、ブライダル。そのネコ目の姉さんってやめてくんない? ウチはメモライズって名前があるんだからさ」
「えッ? ネコ目の姉さんって呼び方可愛くない? 猫娘も今や年々美少女化しているし」
「うん? なにその猫娘って?」
ブライダルの言葉に、メモライズが首を傾げるとサーベイランスが口を挟む。
「すまんな。こいつはたまに別世界の話をし出すんだ。だから、話半分で聞いてやってくれ」
「おいおいサーベイランスッ!? それって遠回しに私のことイタイ子って言いたいわけッ!?」
「イタイ子というのは、空気を読めない奴や常識がない人間のことをいうのだろう? お前は空気は読めるし、頭はおかしいが常識はあるからそれには当てはまらん」
「だよね~。うん、さすがは我らが軍師。わかってるよね~」
メモライズはそんなブライダルを見て呆れていた。
「意外とチョロいんだなぁ……。ねえジャズ。あんたらっていつもこんな感じなの?」
「う、うん……。恥ずかしながら……」
ジャズが申し訳なさそうに返事をすると、ニコも彼女と同じような表情になって鳴いた。
ジープに乗っている他のオルタナティブ·オーダーのメンバーは、そんなメモライズとジャズのやり取りを見て笑っている。
ジャズはそんな彼らに笑顔で軽く頭を下げた。
どうやら彼らはジャズの知らない人間のようだ。
「はいはい、そんなことよりも話を戻すよ。メモライズ、そのライティングって人がいるところには台所とか食材とかある?」
「あるけど、なにあんた、料理でもする気?」
「その通りだよ。久しぶりに激辛タコス食いたいなって思ってさ~。え~と小麦粉かトウモロコシはある? 当然肉や野菜はあるだろうから……そう! サルサソースッ! これは必須だよ!」
「サルサソースってなに? また別世界から出てきた言葉?」
「違うよ! もしかしてマジで食べたことないわけッ!? もう、しょうがないな~。着いたら私がサルサソースから作ってぇ~、皆にブライダル特製タコスをごちそうしてあげるよ」
「えぇ……まあ、楽しみにしてるわ……」
メモライズはそう言ったが、ジープに乗っている誰もが食べたがっていなかった。
それは、どう見てもブライダルが料理をするように見えなかったのもあったが。
聞いたこともない食べ物を口にしたいとは、誰も思わなかったからだ。
「でも、まずは生地からだね~。こいつがなかなか難しくてさ~。一見生地なんて簡単そうなんだけど、そこはプロの技よ。素人と私じゃ確実に差が出るんだよね~」
その後もブライダルのお喋りは止まらず、到着するまで彼女の一人タコス語りは続いた。
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