#652

「いや~遅くなっちゃってごめんね~」


ジャズが皆にブライダルを待つと言ったとき――。


そこへタイミングよくブライダルが現れた。


彼女が身に付けてる身体の線がすごく強調されるパイロットスーツが血や砂埃で汚れ、その顔にも時間が経って乾いた血がべっとりと付いている。


その姿は、ブライダルがどれだけの修羅場を潜ってこの場へ来たのかがわかるものだった。


それと軽口こそ叩いてはいるが、その表情は暗く、普段の彼女とは思えない。


「なんとかなると思ったんだけど、遅刻しちゃったね……ハハハ」


ジャズはそんなブライダルに近づくと、突然彼女を抱きしめた。


その様子はまるで我が子――いや、自分の命そのものをいつくしむかのようだった。


「なにそんな顔をしてんの? あんたはいつも陽気な最強の傭兵でしょ? いつもみたいに笑ってよ」


「ジャズ姉さん……?」


「ブライダル……ありがとね……。それと、ヘルキャットもアリアも……サーベイランスもニコも……皆ありがとう」


ジャズはブライダルの身体から手を放すと、皆のほうへ振り返って礼を言った。


ブライダルはそんな彼女に戸惑っていたが、すぐにいつものヘラヘラとした表情へと戻る。


「よくわかんないけど、なんか吹っ切れたって感じだね。……で、そんな姉さんに言いづらいんだけど……」


「クリーンが死んだのね」


ブライダルが伝える前に、ジャズ答えた。


何故ジャズが知っているのか。


ブライダルにはわからなかったが、彼女にうなづき返す。


「クリーンちゃん……やっぱり……。うぅ……うわぁぁぁッ!」


それを見たアリアは両膝から崩れ落ち、その場で大声で泣き始める。


アリアは、ずっと閉めていた感情の蓋が開いてしまったのだろう。


なりふり構わずに、地面に頭をこすり付けていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……。私がクリーンちゃん……ジャガー君だってきっと……私のせいで……」


「アリアのせいじゃないッ! もう泣くなよッ!」


そして、そんなアリアに寄り添いながらヘルキャットもまた涙を流していた。


「……私たちが五体満足でいられるのも、クリーン·ベルサウンド……そして、ジャガー·スクワイアのおかげだな……」


サーベイランスもどこか悲しそうにしながら、小さく鳴いているニコの背中をさすっている。


「みんな、泣いてる場合じゃないよ」


その場にいる全員が悲しむ中、ジャズがそう声をかけた。


皆が彼女を見る。


「クリーンの声はまだあたしに聞こえてる……。だから……だから……」


アリアはそう言うジャズを見て立ち上がり、ヘルキャットは流れる涙を拭った。


ニコは大きく鳴き返し、サーベイランスは呆れた様子でいる。


「ハハハ、そう言うジャズ姉さんが泣き止んでないじゃんか」


ブライダルがそう言うと皆が笑った。


ジャズは「うるさい」と言いながらブライダルに微笑むと、涙を拭うことなく潤んだ瞳で言葉を続ける。


「これから……みんなでハッピーエンドを目指すんだ!」

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