#651

――ウェディングとブライダルがストリング帝国の包囲を抜けたとき。


ジャズを乗せたプレイテックは、森の中にある川辺の前に止まっていた。


「本当にこんなところへ、迎えか来るんでしょうねッ!?」


ヘルキャットが小さな機械人形――サーベイランスに向かって声を張り上げる。


サーベイランスは、彼女とアリアにこの川の前に止めるように言うと、ここへ味方が迎えに来ると伝えた。


だが、それが誰かは知らせておらず、いい加減に教えろと苛立ったヘルキャットがサーベイランスを怒鳴っている状況だった。


喚くヘルキャットを押さえながら、アリアがサーベイランスへ言う。


「でもサーベイランス。いつまでもこんなところにいたら帝国に見つかってしまいますよ」


「心配するな。そのときはそのときだ。私たちに運がなかっただけのこと」


サーベイランスのまるで他人事かのような言い方に、ヘルキャットはさらに大声を出す。


「あんたねぇッ! それでもロボットなのッ!? 運任せなんて、あんたの人工知能はどうなってんだよッ!」


「そうだな……。私はおかしくなったのかもしれん」


「自分に酔ってんじゃねぇッ!」


そのとき、プレイテックから目を覚ましたジャズが彼女たちの前に現れた。


その傍には、寄り添っていた電気仕掛けの仔羊ニコの姿もある。


ヘルキャットとアリアは、ジャズを見て、彼女が落ち着いていることに驚きを隠せずにいた。


それは、ジャガーを置いて脱出するという状況で、ジャズは言うことを聞かずにたとえ死んでも助けに行くと言って聞かなかったからだ。


「二人共、サーベイランスの言うことを聞こう。大丈夫、彼は間違えないから」


「ちょっとジャズッ! そんなことを言っている場合じゃないんだよ!」


「そうですよジャズちゃんッ! ヘルキャットの言う通り、いつまでもここにいたら帝国に見つかってしまいますッ!」


ジャズは声を張り上げるヘルキャットとアリアを見て、穏やかな笑みを返す。


「まだ、ブライダルが来ていないよ。あの子を待たなきゃ」


そして、川の前へと歩を進めと、彼女は星空を見上げた。


「皆が笑顔になれるハッピーエンドを目指すのに、あなたたちとサーベイランス、そしてブライダル……もう誰も失うわけにはいかない」


そう言ったジャズに、ヘルキャットとアリアは何も言えなくなってしまっていた。


ただ柔らかな笑みを浮かべるジャズを見ているだけだ。


その様子を見て、サーベイランスは思う。


この娘は変わったか。


いや違う。


変わったのではない。


この娘は受け取ったのだと。


「私がサービスから受け取ったのと同じことか……」


そしてサーベイランスは、誰にも聞こえないくらいの音量でそう呟いた。

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