#648

――サーベイランスとニコがジャズたちと合流した頃。


ローズの命令でクリーンの遺体を回収したスピリッツが、数名のストリング帝国兵を連れて本拠地である陸上戦艦ボブレンへと向かっていた。


クリーンの遺体は凍結機によって冷凍保存に収納――腐敗ふはいしないように管理され、スピリッツの乗る車の後部座席に置かれている。


しばらく来た道を進んでいくと、前から向かってくる帝国軍が見えた。


おそらく足止めしていたウェディングを振り切れなかった部隊だろう。


「スピリッツ少佐、アバロンの奴から連絡は受けてるぜ。クリーン·ベルサウンドの死体を運ぶんだろ」


「うん? 少佐なんかお疲れですね。大丈夫ですか?」


そこには、ローズの親衛隊のメンバーであるコーダ·スペクター少尉と、ネア·カノウプス少尉二人がいた。


何故か不機嫌そうなコーダと、どうしてか前かがみになって自分の大きな胸を強調しているネアを見て、スピリッツはプレイテックから降りる。


わしのことよりも、二人ともケガはないようだな」


「当ったり前だろ。ハザードクラスの……そのなんだ……? そうそう、ダンシングダイヤモンドだがクレイジーダイヤモンドだが知らねぇが、中学生くらいのガキに俺がやられるかよ」


「まあ、そういう私たちも高校生だから大して変わらんのですけどね。それと、勝ち負けでいったらあの子の勝ちですよ。だって、こっちは百人いた兵が半分以下にされてるんですから」


ネアが「オホホ」と笑いながらそう言うと、コーダは表情を強張らせた。


どうやらウェディングの襲撃をまともに相手していたのは、二人の部隊だったようだ。


スピリッツがそんな二人を見て安堵あんどの表情を浮かべていると、コーダとネアの後ろにいた兵らが大声で叫んだ。


「チッ、敵襲かよ。まさか舞う宝石ダンシング ダイヤモンドがまた来たか?」


「これはヒジョ~にマズいですね。遺体を無事届けなくちゃいけないのに、こちらの兵は少ない」


ネアがそう言うと、コーダは兵が叫んだほうへと走りだそうとした。


きっと一対一で決着をつけるつもりなのだろう。


積もりに積もった苛立ちを、また現れたと思われるウェディングにぶつけるつもりだ。


だが、スピリッツが彼の肩をグッと掴んで止める。


「待て、コーダ少尉。君はネア少尉と共にこの場から去るんだ。遺体を無事に届けるためにな」


「なんだよ少佐ッ! 俺じゃ返り討ちにあうとでも言いてぇのかッ!?」


声を張り上げるコーダに対し、スピリッツはピックアップ·ブレードを手渡した。


これは先ほどの戦闘でスピリッツが、アバロンから借りたものだ。


「これをアバロン少尉に返しておいてくれ。敵襲は儂が食い止める」


そう言ったスピリッツは実に穏やかな顔をしていた。


コーダはそんな上官の顔を見ると何も言えなくなり、黙って渡されたブレードを受け取る。


それを傍で見ていたネアが言う。


「いやいや、枯れた男の魅力もいいですね~。今まで年上の男性に興味なかったけど、私の守備範囲が広がりそうです!」


「お前の守備範囲は元から海より広いだろ?」


「なななッ!? それじゃまるで私が節操せっそうなしみたいじゃないですかッ!」


喚き始めたネアに、呆れた顔を返すコーダ。


そのときの彼の表情は、「お前に節操なんてあったのか?」とでも言いたそうだった。


スピリッツはそんな二人を見て笑みを浮かべていると、突然帝国兵をなぎ倒して飛び込んでくる人影が目に入る。


「いかんッ!? 二人とも下がれッ!」


そして、スピリッツがコーダとネアを突き飛ばした瞬間――。


彼の胸をダイヤモンドの刃が貫いた。

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