#631

ジャズはジェーシーの口にした名を聞いて両目を見開いた。


よく知っている名前――彼女がバイオニクス共和国へ初めて行ったときから気にかけてくれていた少年ミックスの名だ。


「ミックス……が、ストリングって……? どういうことッ!?」


「やれやれ、あなたはいちいち説明を求めるのですね。今の名を聞けばわかるでしょう?」


ジェーシーは驚くジャズのことをまるで小馬鹿にするかのように笑う。


そして、しょうがないといった表情をすると言葉を続けた。


「ストリングの姓、つまりはこのストリング帝国の皇帝レコーディー·ストリングのご子息ということです」


「そ、そんな……ミックスが帝国の皇子だなんて……」


戸惑うジャズを見たジェーシーは、白衣のポケットに入れていた電子端末を取り出してそれを操作をし始めた。


すると、彼女たちの目の前に立体映像が現れる。


そこには、ストリング帝国の皇子と皇女である二人――。


アンビエンス·ストリングとイーキュー·ストリングの姿が映っていた。


「アンビエンス皇子……。それにイーキュー皇女……。二人共……まさかウイルスにッ!?」


ジャズは映像を見て、二人がマシーナリーウイルスによって機械化していることを知る。


ベットで眠ったままの二人は、すでに身体の半分以上が機械化していて、機械人形オートマタになる寸前だ。


このまま機械人形オートマタなってしまえば、二人は自我を失い、文字通りただの戦う人形になってしまう。


「これでこの研究施設が必要なことがわかりましたか? 皇子皇女二人を救うためには、たとえ何人殺そうが研究を続けなければいけないのですよ」


「でも、皇子たちとミックスに何の関係があるっていうのッ!?」


「あなたは本当に飲み込みが悪いですね。スクールでは主席と聞いていたのですが、所詮は名誉称号といったところですか」


ジェーシーは理解力の乏しいジャズに呆れ始めると、とても面倒臭そうに話を始めた。


皇帝レコーディー·ストリング亡き後に、養子として育てられていた兄妹にはもう一人弟がいた。


それがミックスなのだと、ジェーシーはジャズに言う。


「もっとも私たちも最近知った事実なのですがね。それもこれもノピア将軍が隠していたせいですよ。まったく、生きているのか死んでいるのか知らないけれども、何を考えているんだか」


「ノピア将軍が……隠していた……?」


次から次へと驚愕の事実を突き付けられたジャズだったが、ハッと我に返り、自分が知るべきことを訊ねる。


「ミックスはッ! ミックスはどこにいるのッ!?」


ジェーシーは叫ぶように訊いてきたジャズに向かって微笑んだ。


そして、後についてくるように言った。


「この研究施設にいますよ。ミックス第二皇子に会いたいなら、これから会わせてあげます」

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