#630

ジャズはリーディンが入った器からなんとか彼女を出そうとしたが、どうすることもできずにいた。


それからも何度も透明のガラスを叩くが、かなりの強度なのか割ることもできない。


「こうなったら、効果装置エフェクトッ!」


効果装置エフェクトとは――。


普通の人間がマシーナリーウイルスの適合者と同じ力を得るための腕輪バングル


使用することで皮膚の表面を機械で覆い、身体能力を上げる。


さらにその機械装甲の手からは、ディストーション·ドライブという光線兵器を発射可能。


ジャズは叔父ブロードの形見であるこの腕輪バングルのスイッチを入れ、機械化した右腕で器を破壊しようとしたが――。


「こんなところで何をしている?」


冷たい女性の声が背後から聞こえてきた。


ジャズが振り向くと、そこにはローズ·テネシーグレッチとジェーシー·ローランド二人が立っていた。


「ローズ将軍ッ! これは一体なんなんですかッ!? なんでリーディンがこんな目にッ!?」


ジャズはこの場にいたことの説明もせずに、声を張り上げて訊ねた。


ローズはそんな彼女を見てフンッと鼻を鳴らしている。


すると、白衣の女性――ジェーシーがその口を開く。


「ジャズ中尉、あなたには後でちゃんと説明しようと思っていたんですけどね」


「あんたには訊いてないッ! あたしはローズ将軍に訊いてるんだッ!」


ローズはさらに声を張り上げて叫ぶジャズを見て笑った。


「なんだ? 昔の覇気が戻っているじゃないか。いいぞ、それでこそジャズ·スクワイアだ。好ましく思うよ」


「いいから答えてくださいッ! いや、それよりもリーディンをこの中から出してッ!」


今にも飛び掛かって来そうなジャズの姿に、ローズは嬉しそうにするとジェーシーへ視線を向ける。


ローズは無言のままだったが、ジェーシーは彼女が何を言いたいのか察したのか、ジャズに話を始めた。


「見てわかると思いますけど、ここはマシーナリーウイルスの研究施設なんですよ」


それからジェーシーが言うに、この透明の器に入ってる者たちは皆、それぞれ特殊能力を持った人間たちなんだそうだ。


それは、バイオニクス共和国の生物研究で生み出された者や、リーディンのような呪いの儘リメイン カース――。


さらにはマシーナリーウイルスに適合できずに全身が機械化――機械人形オートマタになりそうな者もいると言う。


「欲を言えば、奇跡人スーパーナチュラルも研究したいんですけどね。残念ながら、ベルサウンド兄妹には逃げられちゃいました」


「クリーンやブレイクもここにいたの?」


「ええ、あなたが知っている人なら、そこにもう一人いますよ」


ジャズがジェーシーの言った方向を見ると、リーディンと同じように器の中で苦しんでいる人物がいた。


長髪パーマにガッチリとした中年男性――ハザードクラス非属ノン ジーナスと呼ばれているロウル·リンギングだ。


「そんな……ロウルさんまで……」


唖然としているジャズを見たジェーシーは、さらに説明を続ける。


「これも帝国のためなんですよ。そう、あなたのよく知っているミックス·ストリングを救うため……」

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