#627

よく知っている懐かしい声。


ジャズは慌てて顔を拭うと扉を開ける。


「アリアッ! 無事だったんだね!」


扉を開けると、そこには長身の少女――アリア·ブリッツの姿があった。


ジャズが抱き締めると、アリアはその瞳をうるわす。


手足が長くスリムな彼女を抱きながらジャズも目頭が熱くなる。


「ジャズちゃんこそ、無事よかったです」


ジャズはそう言ったアリアから離れると、部屋へと招き入れる。


そして、冷蔵庫にあったミネラルウォーターを手に取り、置いてあった椅子と共にアリアに差し出した。


「ヘルキャットやジャガー君もジャズちゃんに会いたがっていましたよ」


「二人とも無事だって聞いていてけど、よかった……」


アリアの言葉に、ジャズは安堵の表情を浮かべる。


それは、離れ離れになってしまった仲間が生きていたからだ。


これまでもメディスン、アミノ、プロコラット、ユダーティ、リズムなど、自分が気を失っている約一年間介抱してくれた仲間たち――。


そこから出て見つけたブライダルと、新しい仲間サーベイランス――。


そして揉めてしまったが、ライティングの組織にいるウェディング――。


皆が無事でいたのだ。


これならミックスやまだ見つかっていない仲間たちも生きている可能性は高いと思い、ジャズは安心したのだった。


それから二人は互いのことを話し合った。


アリアはヘルキャットと共には帝国軍の救出隊によって助けられたようだ。


ジャズのほうは自分が約一年間眠り続けていたことと、ブライダルやサーベイランスのこと――。


そしてブロードの死を伝えた。


アリアは一瞬取り乱しそうになったが、命懸けでジャズを救った彼のことを誇らしく思うと、気丈に振る舞っていた。


互いのことを伝えあうと、話題は今のストリング帝国のことに。


「アリアから見て、今の帝国はどう?」


ジャズが訊ねると、アリアは人差し指を立て、彼女に喋らないようにとうながした。


そして、小さな紙をそっと渡す。


「さあ、私に難しいことはわからないです。ただ一軍人として、与えられた任務を遂行することくらいしかできませんから」


「そっか」


ジャズはそんな彼女の仕草から、この部屋に盗聴器が仕掛けられているのかと察し、当たり障りのない返事をした。


「それじゃ、私はもう行きますね」


「もう行っちゃうの?」


「ええ、事務処理の合間に、ちょっとジャズちゃんと会いたかっただけですから」


アリアはそう言うと部屋から出ていく。


ジャズは、去り際に見せた彼女の真剣な表情から渡された紙に何か重大なことが書かれていると思った。


パタンと扉が閉まると、ジャズは早速渡された紙を開く。


そこで、まず目に入ったのは――。


『よう、ジャズ。やっぱり生きていたか。まあ、オレはヘルキャットやアリアと違ってまったく心配してなかったけどな』


彼女の双子の弟――ジャガースクワイアの名と彼らしい軽妙けいみょうな文体だった。

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