#626
その後、ローズの部屋から出たジャズは建物の外へ行き、待機していた帝国兵よって用意された場所へ連れて行かれた。
ジャズは去り際に彼女が言っていたことを考えていた。
今この世界に秩序をもたらすことができるのは、我々ストリング帝国だけだ。
その言葉に異論はない。
実際に、大災害で混乱した各国の争いを止めるためにローズ将軍は軍を動かしている。
ならば、何故ライティングはそんなストリング帝国に歯向かっているのか。
彼の性格なら喜んでローズに手を貸そうとしそうだが。
ローズはさらに去り際に、言葉を付け足した。
それはジャズが帝国に戻ってくるのなら、彼女を指揮官とした新しい部隊を結成するというものだった。
「そのほうが仲間も納得しやすいだろう? さっきも言ったが、お前にはああいう連中を惹きつける魅力があるようだからな」
ローズは、ブライダルやサーベイランスのような帝国に
少数の隊なら指揮した経験はあるが、大規模な部隊――完全なる自分の思い通りに動かせる兵たちを従えたことないジャズにとって、その発言はローズの彼女への期待を感じさせるものだった。
ましてや、ジャズの階級は中尉――
左官クラスの人間ならまだしも、今の彼女の地位からは考えられないほどの大出世といえた。
考えていると、用意してもらった場所へと到着。
それは簡易的なプレハブ小屋だったが、出来たばかりだということがわかる真新しいものだった。
帝国兵たちはジャズが中に入るのを確認すると、敬礼してその場を去って行く。
中にはベットとテーブルと椅子が一つずつと冷蔵庫があり、冷蔵庫内には冷えたミネラルウォーターなどが入っていた。
ジャズは一通り狭い部屋を見て回ると、ベットへと腰を下ろす。
「あたしは、どうすればいいんだろう……」
力なく独り言を呟くジャズ。
彼女の頭の中には、ある人物たちの姿が浮かんでいた。
直属の上司だったノピア·ラシック。
叔父であるブロード·フェンダー。
そして、彼女の性格に最も影響を与えたマシーナリーウイルスの適合者の少年ミックス。
だが、ノピアはサーベイランスとの戦闘で行方不明。
ブロードは自分を大災害から守ったときの怪我がもとで死亡。
ミックスの姿を最後に見たのは、
「ミックス……。あなたなら……きっと……」
そして、彼女は思う。
もしミックスが自分の立場だったら、ウェディングが何をしようが彼女のことを信じ、そしてローズの言葉を受け入れて誰もが笑顔になれる道を探すだろう。
「そうだよ……。あたしはノピア将軍と叔父さんの意志を継いで、ミックスがいつも願ってた、皆がハッピーエンドになれる結末を目指すんだ」
そう決意したジャズの目の前には、いないはずのミックスの姿が見えていた。
ミックスは彼女に向かって、いつも見せていた乾いた笑みを浮かべている。
「ミックス……?」
ベッドから立ち上がったジャズがミックスに触れようとすると、彼の姿は消えていく。
「ハハハ、あたし……なにやってんだろ……」
ジャズは乾いた笑み浮かべた。
ミックスの幻を見た自分が情けなくて、自嘲しながら涙ぐむ。
そのとき、部屋の扉からコンコンコンとノックの音が鳴った。
「ジャズちゃん? 私です、アリアです。入ってもいいですか?」
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