#605

ブライダルはジャズへ言葉を続ける。


「姉さんもスープくらいは作れないと、あの適合者のお兄さんに振られちゃうよ」


「でも……ミックスは……旨くなったって言ってくれたけど……」


「えッマジでッ!? これで旨くなってるのッ!?」


ニコは、そんなジャズとブライダルを一瞥すると、鍋に入っているスープを見る。


そして、それをスプーンに取って一口。


確かにブライダルが言う通り、よくわからない苦甘さが口の中に広がる。


それでも食べられる。


そう――。


けして美味しくはないが問題なく食べられるのだ。


この電気仕掛けの仔羊は、自分とミックスが食べさせられていた料理は、こんなマトモなものではないとブライダルに向かって鳴いていた。


そんな空気の中で、ブライダルが呆れているサーベイランスに声をかけた。


味がわかるならジャズの料理を食べてみろと。


サーベイランスはそれを拒否したが、料理の旨い不味いの判断はできると言う。


「じゃあ、あたしの作った料理は食べるまでもないってこと? さっきから呆れてるのもそのせいなの?」


ジャズが不機嫌そうに訊ねると、サーベイランスは再び首を左右に振った。


そして、重々しい口調で何故自分がこんな態度なのかを話し始めた。


「私が呆れているのは料理なんてどうでもいいことじゃない」


「じゃあ何よ? 料理なんてって言うくらいだから余程のことでしょうね」


ブライダルが不機嫌そうに口を挟む。


ニコも彼女に同意しているようでいつもより甲高い声で鳴く。


「そんなの、私の提案が拒否されたからに決まっているだろう」


湖に沈んだ街――イノセント·パッケージ·シティ通称IPSを地上に上げることに成功し、さらに先ほどいた町もエレメント·ガーディアンから救ったことで――。


ジャズたちはそれぞれの街の住民たちから信頼を得た。


中には彼女の力になりたいという者までおり。


サーベイランスは彼らを使って軍隊を作ろうとしていた。


しかし、ジャズはそれに反対。


彼女は、民間人を危険な戦場へ連れ出すなどあってはならないの一点張りだった。


「まだそんなことを言ってんの? その話はもう終わったでしょ?」


「何度も言うが数は重要だ。それに、たとえ戦えなくても後方支援や物資の調達にも使える。最悪、弾除けにもなる」


「サーベイランスッ! あたしがそんなことしてほしくて戦ったんじゃないのはわかってるでしょ!?」


サーベイランスの言葉にジャズが声を荒げた。


そんなことはサーベイランスも当然わかっていた。


だが、これからのことを考えると、どうしても基盤となる地や支援してくれる者たちが必要だ。


サーベイランスはその必要性をジャズに話したが、彼女が聞き入れることはなく、そのため呆れた態度を取っていたようだ。


「はい! この話はもう終わりッ!」


ジャズは吐き捨てるように言うと、今夜眠るためのテントの準備に入った。


ブライダルは見るからに不機嫌そうな彼女を見て、もう不味い料理のことを言えなくなっている。


「今度からは私が作ろう……」


「なんか言った!?」


「いや、なんにも……」


まだ苛立っているジャズにそう返事をしたブライダルは、ニコにポンと肩を叩かれる。


そのときのニコの表情は、自分も手伝うよとでも言いたそうな顔をしていた。


そして、ニコと共にテントを張るジャズを手伝うのだった。


「遠回り……遠回りをしたがる……」


そんな彼女たちを眺めながら――。


サーベイランスがポツリポツリと呟いていた。

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