#603

轟音と閃光が飛び交う戦場に、一人の少女が向かっていた。


黒い戦闘服に身を包んだ彼女は、反撃している味方の間を通り過ぎていく。


味方の兵士たちも彼女ほどではないが、皆まだ若い未成年者だ。


「ウェディング隊長ッ! ここは危険です! 帝国の追撃が迫っていますッ!」


味方の一人が彼女へ声をあげた。


ウェディングはそれでも止まらず、味方の兵士たちに後退するように言った。


先ほど彼女に声をかけた兵士が訊ねる。


あなたはどうするつもりなのかと。


殿しんがりは私が引き受けます。たがら、皆さんはすぐに全軍に退却の指示を」


ウェディングがそう言うと、彼女の両手の甲からダイヤモンドの剣が現れた。


陽にさらされたダイヤの剣が光に反射すると、彼女は一人敵の集団へと飛び込んでいく。


それを見て表情を歪ませた兵士たちは、彼女に言われたように撤退を始めた。


ウェディングは駆けながら味方の撤退を確認すると、両手の甲に生えたダイヤの剣を構える。


向かってくる少女を見て、敵の兵士たち――ストリング帝国兵らが口々に叫ぶ。


舞う宝石ダンシング ダイヤモンドが来たと。


帝国兵は一斉に手に持っていた電磁波放出装置――インストガンの引き金を引いた。


ウェディング目掛けて電磁波が放たれる。


だが、放たれた閃光は彼女のダイヤの剣によって相殺。


それを見た帝国兵らは声を張り上げながらさらに電磁波を撃ち続けた。


それでもウェディングは止まらない。


電磁波で身体が焼き焦げようが、彼女の身体は泡を立てて再生していくのだ。


これがウェディングの能力――超復元グレート·リストレーション


実質的にどんな重傷を負おうが、どんなウイルスに感染しようがすべて正常な状態に治してしまう治癒能力。


バイオニクス共和国のとある研究所で行われた増幅アンプリフィケイション計画で生まれた少女。


その全身の骨格こっかくには分子ぶんしレベルでダイヤモンドを結合けつごうされ、自分の意思いしで全身のどこからでも武器として露出ろしゅつ可能かのう(皮膚ひふを突きやぶってダイヤモンドにするなど)。


先ほどから手の甲からダイヤモンドの剣を出せるのもこの体質のためだ。


だがこの力はあくまで治癒能力の後付けであり、彼女の本当に恐ろしいところは心臓を潰されようが、頭を吹き飛ばされようが、瞬時に蘇生できることである。


「くッ!? やはりハザードクラスは化け物かッ!?」


帝国兵たちが表情を強張らせて叫んでいた。


そして、ウェディングのダイヤの剣が帝国兵たちへと襲い掛かった。


次々に血が吹き乱れ、兵たちの腕や首が飛んでいく。


圧倒的な数の差が力の差へと変わっていく。


ストリング帝国軍はたった一人の少女にその陣形を崩されてしまう。


なんとか戦況を立て直そうと動き出しても、剣を振り回すウェディングを誰も止められずにいた。


「囲め囲めッ! 数ではこちらが勝っているんだッ!」


それでも怯まない帝国兵。


これからさらに激しい戦いが始まろうとしていたときに、一台の車が戦場のど真ん中へ現れる。


その車の名はプレイテック。


ストリング帝国の装輪装甲車であり、軍の遠征時には欠かせない戦闘車両である。


だが、プレイテックはウェディングにも帝国側にも電磁波放出装置――ボディに付けられた大型のインストガンで攻撃を始めた。


「エレメント·ガーディアンに取り付かれたかッ!」


暴れ回るプレイテックは黒い光に包まれていた。


操縦席には誰も乗っていなく、先ほど帝国兵の一人が叫んだように、エレメント·ガーディアンに取り付かれているようだ。


ウェディングはプレイテックが戦場を暴れ始めると、すぐに撤退。


ダイヤの剣で向かってくる電磁波を防ぎながら下がっていく。


「逃がすなッ! 追え! 追えぇぇぇッ!」


指揮を執っていると思われる帝国兵が叫んだが。


ウェディングは暴れるプレイテックを盾にして、そのまま姿を消してしまう。


いくら声を張り上げようがプレイテックに手が一杯だった帝国兵たちは、彼女への追撃を諦めるしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る