#599

その後――。


サーベイランスへと繋がれたジェネレーターのケーブルが激しく動き始めた。


胸部にあるルーザーリアクターが、流れてくるエネルギーに反応して点滅するように光っていたが、サーベイランスがいうように先ほどの戦闘時のものよりは大人しい。


だが、さすがにケーブルは揺れているので、サーベイランスのボディを抱いているニコも、その振動で小刻みに揺れていた。


「ハハハ、なんかてんかん発作を起こしてるみたい。あれ? でも羊はてんかんになるのかな?」


「犬は百匹に一匹、純血種の場合だと五十匹に一匹がてんかんであるって何かで見たことがあるけど」


「さっすがジャズ姉さんッ、物知りだね~。でもまあ、電気仕掛けの仔羊は病気とは無縁だから、もしも話みたいなもんだけどね~」


まるで痙攣しているようなニコを見て、ブライダルが軽口を叩いていると室内全体が揺れ始める。


その揺れを感じ、ジャズが笑みを浮かべていた。


「成功かな……?」


それからイノセント·パッケージ·シティ通称IPSの街は見事に湖かの底から浮上。


街はそのまま水面を浮かびながら、周りを囲んでいた谷へと突っ込んでいく。


その衝撃で街全体にはドスンッと凄まじく揺れ、同時にガシャンッというガラスの割れる音が大きく鳴り響く。


そして、ようやく街の動きは止んだ。


「無事に湖の底から出れたようだな」


サーベイランスの言葉にニコが歓喜の鳴き声をあげると、ブライダルがジャズに向かって両手を上げている。


一体何をしているんだと思って首を傾げているジャズ。


ブライダルはそんな彼女へ言う。


「知らないの? ハイタッチだよ。ハイファイブって言ったほうがわかるかな? まあ、お互いの手の平を顔や頭の高で合わせて叩きあう動作でぇ、勝利や称賛を分かち合う仕草だよ。つまりは、やったぜ姉さんッ! ってこと」


「あ、なんだ。そういうことね」


ジャズは手を上げてブライダルの上げている手の平を叩こうとしたが、うまく身体が動かずにその場に倒れてしまう。


そんなジャズを見て、ニコがサーベイランスを抱いたまま彼女へ駆け寄る。


だが、ブライダルは慌てることなく上げていた手を下げ、大きくため息をついていた。


「忘れてたわ~。姉さんはもうとっくに限界だったんだよね~」


そんなブライダルの目の前に出、ジャズに鳴きかけるニコ。


電気羊に抱かれたままのサーベイランスは、気を失っているジャズを見下ろしながら途切れ途切れに呟く。


「サービス……。お前の信じた人間は……大したものだ……」


その声はどこか満足気だった。


だがそんな彼の呟きも、ジャズが心配で鳴き続けるニコの声で、周りに聞こえることはなかった。

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