#598

ジャズは自分のことなど気にせずに、サーベイランスがどうなったのかを訊ねた。


まだ痛む身体と軋む機械の腕を使って立ち上がろうとしている。


そんな彼女を見てブライダルが呆れていると、ニコが走り出して落ちていた金属の塊を両手で掲げた。


その両手には、ボロボロになったサーベイランスの身体が持たれている。


半壊しているサーベイランスを掲げてニコが大きく鳴く。


「うるさいぞ……。そんなデカい声で鳴くな……」


途切れ途切れだったが、サーベイランスが声を発した。


やかましいと言うサーベイランスに向かって、ニコはさらに大きく鳴いている。


ジャズはそんな二体を見て顔を綻ばせると、ニコとサーベイランスへ近づいていく。


「よかった……。なんとか助かったみたいね」


「……そんなことよりも、今は……この街を湖から出すのが先だ……」


サーベイランスはか細い声でジャズやブライダルに指示を出し始めた。


先ほどまで戦っていたジェネレーターの出力を使って、この街を浮上させるために。


「ゲートトリガーを用いて……ジェネレーターの出力していたパルスを制御する……。言っていることはわかるな?」


「いや、まったくわからんのですけど……。つーかもう壊れてんじゃんこれ。正直無理ゲーっしょ」


ブライダルはサーベイランスの指示を聞いて、真っ二つになった歯車のような動力にコツンと蹴りを入れた。


こんなものから街を地上へ動かすエネルギーが得られるのかと、まるで子供の集団に弄られる犬猫のような諦め顔で言っている。


だが、ジャズは息を切らしながらもサーベイランスにさらなる指示を求めた。


もう酸欠で呼吸するだけでも苦しいのだろうが、手足を失ったサーベイランスの代わりに自分がなんとかしなければと、その身体を奮い立たせている。


「あたしはわかる。早くどうすればいいか教えて」


さすがは世界一科学技術が発達していた国――ストリング帝国で生まれたジャズ。


ブライダルとは違い、サーベイランスの言う専門用語や電子回路などの原理は理解しているようだ。


ニコは掲げていたサーベイランスを胸に抱くと、ジャズの傍へ向かう。


動けないサーベイランスが彼女へ指示を出しやすいようにするためだ。


サーベイランスがジャズへ言う。


「まずは……メインのケーブルを探してくれ……。焼き切れていても構わん……」


イノセント·パッケージ·シティ通称IPSという街は、ガラスに覆われたドーム型都市だ。


都市を機能させるには、かなりの電力が必要だと思われる。


その対策として、大規模な発電システムがあると考えられた。


それがこのジェネレーターだ。


サーベイランスは系統、負荷間のインターフェースとなる電力変換装置を使って、このジェネレーターのエネルギーを強引に浮上させるものへと出力と説明した。


「そんなエネルギーを噴出させるとこなんかこの街にあるの? それに電力変換装置なんて、そんなのどこにあるわけ?」


「お前にも……わかるように簡単に言うと……磁気浮上に近いものだ……。それと電力変換装置は……私の胸部にあるルーザーリアクター……と、反重力装置アンチグラビティを使う……」


サーベイランスの言葉にジャズは表情を歪めた。


そんな壊れかけの身体で、都市を機能させるような出力に耐えられるのかと、彼女はニコに抱かれているサーベイランスに叫ぶ。


「そんなの絶対に無理だよッ! あんたが壊れちゃうってッ!」


「さっきやったことよりもリスクはない……。ルーザーリアクターを……変換装置とするだけだからな……。一時的なコンソールとなるだけだ……」


「本当なんでしょうね? 嘘だったら許さないからッ!」


サーベイランスは何を許さないのかが理解できなかった。


だが、なんだか胸のリアクターが熱くなっていくのを感じている。


「いいから……早くしろ……。時間が惜しい……」


「わかったわよ! ブライダル、あたしの言ったケーブルをサーベイランスのとこまで運んで。あたしはメインのケーブルとサーベイランスを繋ぐから」


「へいへ~い」


そして、ジャズとブライダルはそれぞれサーベイランスの指示に従って行動を始めた。

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