#596

下がっているように言われたジャズだったが、ブライダルとは違って彼女はサーベイランスへと近づく。


「あんたも下がらないと飲み込まれちゃうよッ!」


心配そうに言うジャズに、サーベイランスは呆れた様子で返事をする。


「まったく……お前は優等生そうなのに人の話が聞けん奴だな。ブライダルを見てみろ。あの少女はふざけたことばかり言っているようで、実は状況を見極める能力が高い」


「お褒めの言葉をありがとねぇ~」


ジャズとサーベイランスの後ろからブライダルが手を振って笑みを浮かべている。


それとは反対に、ニコは不満がありそうな顔でサーベイランスのほうを見ていた。


サーベイランスの言っている意味がよくわからないジャズは、無理矢理にその身体を掴んで後退させようとした。


そのときだった。


サーベイランスの身体――胸の辺りが開き、そこから円形の輪のようなものが現れて輝き始めたのだ。


「この光は……」


ジャズはこの輝きに見覚えがあった。


それは、彼女が家族のように大事に思っていたアンドロイドの少女――サービスが放っていた黄金の光りだ。


「わかったら離れていろ。リアクターの力を解放して奴を吹き飛ばす」


サーベイランスがいったリアクターとは、ルーザーリアクターと呼ばれる自然からのエネルギー技術を用いた永久発電機関のことだ。


元々はサービスの心臓部に付けられていたもので、バイオニクス共和国上層部の一人だったアイスランディック·グレイが造り出した。


その機能は、ナノマシンやデータ信号で学習、更新を繰り返すことにより、人間のシナプスの働きや細胞の循環を再現している。


つまりそれは感情を理解し、自分でもそれを学び、感じることができるということだが。


どうやら今のスクラップから造られたサーベイランスの身体では、その機能を使用するに耐えられないようだ。


さらに戦闘面、補助面でいえば、高出力の光線を放つことも可能で、分子や原子レベルで周囲の自然エネルギーに働きかけてそれで人間の傷を治すなどもできる。


サーベイランスは、エレメント·ガーディアンを倒すためにはもうこの方法しかないとジャズへ言う。


「でも、解放したらあんたの身体は……?」


「元々は使うつもりだった。最初の計画にお前たちはいなかったからな」


胸に付いたルーザー·リアクターの光が増す度に、サーベイランスの外観がボロボロと崩れていく。


それでもサーベイランスはリアクターを止めようとはしなかった。


光の照準を室内全体に定め、発射準備に入っている。


「まあ、人間に頼ろうとしたところで所詮こんなもんだ」


「あんた……どうしてここまで……?」


「当然だろう。私は人間を守るために造られたのだから」


そう言うサーベイランスは下半身は、すでに崩れてしまっていた。


三本指の足を失いつつも、光の照準がズレないように上半身のみでバランスと取っている。


そんなサーベイランスへジャズが言う。


「なんだよ……急に良い奴になりやがって……。あぁぁぁッもうッ! そんなこと言うあんたを犠牲にできるわけないでしょッ!!」

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