#591

それから地図で確認した施設へと向かう。


幸い、電子掲示板があった場所からそれほど離れてはおらず、すぐに到着。


施設の扉にはセキュリティーがあった。


ドアにぺたっと貼り付けるだけで設置できるセキュリティシステムのようだ。


どうやらエレクトロンフォンやICカードで解錠、施錠するタイプ。


当然ジャズたちは登録されていないし、エレクトロンフォンさえ持っていない。


「よし、ここはドアを破壊して入るしかないね」


「まあ待ちなって、意外と開いてるかもよ」


ジャズが扉を壊して施設内へと入ろうとすると、ブライダルが彼女を止める。


そして、ブライダルは何気なくドアノブに手を伸ばして捻ると何故か扉が開いた。


「ほらね。イケちゃうもんでしょ?」


「なんで開いてんのよ……。これじゃセキュリティの意味が――」


ジャズは疑問を口にしながら気が付く。


もしかして、先に誰かがセキュリティを解いて中に入っているのではないかと。


おそらく街にいた住民か、それとも見失ったサーベイランスと柄の悪い男女集団か。


「これはちょっと警戒する必要がありそうね」


ここまで走って来たせいか、呼吸を整えようとしながら言うジャズ。


そんな彼女の真剣な表情を見て、同意したニコが鳴きながら手を挙げていた。


それからジャズたちは施設の中へと入って行った。


ここへ来てから誰一人生存者を確認していなかったが、施設内に倒れている人間を見つける。


「大丈夫ですかッ!?」


ジャズとニコが駆け寄る。


倒れている男は下はスラックスにワイシャツ、その上に作業着という格好だった。


服装からこの施設の管理人だと思われる。


管理人はいくら声をかけても返事はしてくれなかった。


だが、苦しそうに呻いているので息はまだありそうだ。


ジャズはブライダルの手を借り、管理人の男を側にあったソファに運んだ。


ずっと酸素が薄い状態が続き、立っていられなくなったのだろう。


ちゃんとした意識もなさそうで、この施設のことを訊ねたくても、とても聞けそうにない状態だ。


「こいつは急いだほうがよさそうだね」


「そうね。直接見てはないけど、街の人たちも同じ状態の可能性は高いもの……」


それからジャズたちは施設内を進んでいく。


あまり時間もかけてはいられないことは、倒れていた管理人の症状を見てわかった。


だがしかし、あまりせかせか急いで動けば呼吸が乱れる。


それで倒れてしまえば、自分たちも管理人と同じように呼吸困難で意識を保てなくなる。


ミイラ取りがミイラになってしまう状況だけは避けなければ――。


「いい、ブライダル。いつもの無駄話はしないでよ」


「へいへい。わかりましたよ~」


ジャズはブライダルに口酸っぱく言いながら施設内へと進んでいると、開いている扉があることに気が付いた。


やはり誰か管理人以外の者がここへ入っていたのか。


ジャズはブライダルに無言で指示をすると、身構えながら開いていた扉へ入って行った。


扉の先には地下への階段があった。


「うわぁ~いかにもって感じだね~。なんか罠がありますよって誘っているみたいだわ~」


ブライダルは嬉しそうに呟くと、ニコは怪訝な顔をしている


「罠でも行くしかないでしょ。頼りにしてるよ、ブライダル」


「そう言われて悪い気はしないよね~。って、やっぱ私はこの話では完璧にチョロインだわ~」


ジャズはヘラヘラと笑うブライダルを無視して、ニコを彼女の後ろに下がらせるとゆっくりと階段を下りていった。

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