#586

ブライダルは窓の外を見るとジャズへ言う。


「私があの柄の悪い中年連中から聞いたのはさぁ。どうやらあの人たち、IPSに行こうとしているみたいなんだよ」


ジャズは、このエンカウンターズという大災害後にできた町は、この地域にある街イノセント·パッケージ·シティ――通称IPSというところに住んでいた者たちが多いという話は、先ほどブライダルから聞いていた。


透明のガラスに覆われた街――IPSは、こないだ起きた大雨により、現在は湖の中に沈んでいると。


それがどうサーベイランスと関係あるのかとジャズが訊ねると、ブライダルはこの宿から出て行くサーベイランスと柄の悪い男女集団の後ろ姿を見ながら答える。


「あいつらってさぁ。ここら辺で追い剥ぎみたいなことして暮らしてるんだけど、ここ最近は大人しくしてるんだよね」


「ああ、いかにもって見た目だもんね。で、それがどうサーベイランスと関係があるわけ?」


「まあまあ、焦るなって。それでさ。最初は私にフルボッコにされたからだと思ってたんだけどさぁ。どうやらあの連中の新しいボス――つまりあの小さいロボットちゃんに人を襲わないように言われていたみたいなんだよねぇ~」


それからブライダルの考えでは――。


柄の悪い男女集団は、湖に沈んでいる街――IPSへ行く地下通路をサーベイランスから教えてもらい、どうやら街にある金目のものを手に入れて盗賊稼業を辞めようとしていると予想。


IPSが湖に沈んでしまったのは、ここ最近のことだ。


透明のガラスに覆われたドームである街なので、未だに住民たちも生きてはいるだろう。


それと大災害以前は、このエンカウンターズがそうなように、IPSもまた人の出入りが激しい活気のあったところだったようだ。


それで、柄の悪い男女集団が欲しがっている金目のものも多くあると、ブライダルは考える。


「それで、それとサーベイランスと――」


「わかんないかなぁ~。とりあえず私たちもあいつらの後をつけて街へ入れば、あのロボットちゃんが何を考えてるからわかるんじゃん?」


ジャズは、ブライダルの言っていることに半信半疑だった。


彼女から見ると、この傭兵の少女も街にある金目のものを狙っているのかとも思っている。


「あんたもその金目のものが目当てじゃないでしょうね?」


「それ酷くないッ!? まあ、お金は嫌いじゃないけどさぁ~。私の一番は楽しいことだから~、今は姉さんの言うこと聞いてるほうが面白そうだってだけだよ。これはそのための作戦だって」


ジャズは思っていることを正直に言うと、ブライダルがおどけて返してきた。


だが、嘘は言ってなさそうだと彼女は思う。


何故ならこの傭兵少女は、大した報酬もなく自分が楽しめるというだけで弱いほうにつくことを、ジャズは知っていたからだ。


「わかった……。今はそれしかないようだしね。あんたの言う通りにするよ」


「オッケー! じゃあ、コッソリと連中の後を追いかけますか」


そして、ジャズはブライダルとニコと共に、サーベイランスたちの後をつけていくのだった。

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