#578

砂漠を越え、何年を放置された朽ち果てている建物や道路、さらに崩れた文明の間からは、水がわき樹木の生えている緑地――オアシスを見ながら、ジャズはメディスンから教えられた町へと辿り着いた。


その町の名はエンカウンターズ。


世界崩壊後に作られた町である。


元々は何もないところだったが、生き残った人間たちが集まり始め、それが町となった。


町の中には多くの軍幕テントが張られ、屋台が並んでいてジャズが思っていた以上に栄えてはいる。


だが柄の悪い連中が多く、さらに未来に希望の見えない現状に自殺者が増えているとメディスンからは聞いていた。


「ここら辺にはたしかドームの町があったはずだけど、どうやらそれとは違うみたいね」


ジャズの言葉に首を傾げているニコ。


当然、彼女以上に世界の地形を知らない電気羊なのだから、そんな態度もしょうがない。


砂漠でついた砂を払いながら、町を見回すジャズ。


ニコもその豊かな毛についた砂を彼女の真似をして落としていた。


そして、そのテントや屋台の間を進んでいくと、当然叫び声が聞こえてきた。


「大変だッ! 町に化け物が入って来たぞッ!」


その叫び声を聞いたジャズは、すぐにその現場へと向かっていった。


「やっぱり話に聞いていた通りね。よし、あたしたちでその化け物を追い払ってやろう、ニコッ!」


声をかけられたニコはジャズに鳴き返す。


我先にと逃げ惑う町の住民たちとは反対方向へ走るジャズとニコ。


そして、辿り着いた先には四輪駆動車――ジープが住民たちへと襲い掛かっていた。


まるで生き物のように――暴れ牛のようなジープは黒い光をその車体に纏っている。


人工知能や自動操縦で動いているようには見えない。


意志を持って人間を襲っているような動きを見せている。


「くッ!? なんなんのこいつッ!? 車のくせに生きてるみたいじゃないのッ!?」


ジャズは叔父の形見である金属の腕輪バングル――腕に身に付けていた効果装置エフェクトへ手を伸ばした。


そして、その装置のスイッチを入れると、叔父がそうだったように叫ぶ。


効果装置エフェクトッ!」


すると、ジャズの左腕が次第に機械で覆われていく。


それはまるで白い鎧甲冑のような装甲となり、陽に晒されて輝く。


「ニコは住民の人たちを逃がして! あのジープはあたしが食い止めるッ!」


ジャズはニコにそう言うと、黒い光を纏ったジープへ一人飛び込んでいく。


そして、そのナノテクノロジー技術によって得た機械の腕でジープの側面を殴りつける。


吹き飛んでいくジープだったが、すぐに車体を整えてジャズへとその前照灯を向けた。


そして、まるで獲物を見つけた獣が呻くように、そのエンジンを唸らせている。


「さあ、かかって来なさいッ!」


アクセルを全開にし、突進してくるジープ。


ジャズは機械の腕を構え、向かってくる敵を待ち構えていると――。


「そのサイドテール……遠くからでもすぐわかったよ」


どこからともなく少女の声が聞こえてきた。


聞き覚えのある声だったが、ジャズは目の前の敵に集中していると、次の瞬間――分厚い刃を持つ柳葉刀――いや、装飾を見るに青龍刀を持ったポニーテールの少女が目の前に飛び込んできた。


「あんたはッ!?」


ジャズが誰か気が付いたとき――。


突進してきたジープは、その少女の持った青龍刀によって真っ二つにされた。


「いや~元気そうだね~ジャズお姉さん」


「ブライダルッ! 生きてたのね!」


その青龍刀を持った少女は、童顔で小柄なトランジスタグラマーな体型をした傭兵――ブライダルだった。

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