#572
ジャズは最後に残したスープを飲み終えると、三人に一礼して椅子から立ち上がった。
そして、半分も口を付けていないポテトグラタンの皿と共に食器類を流しへと運ぶ。
「おいおい、全然食べてねぇじゃねぇか?」
それに気が付いたプロコラットが声をかけた。
ジャズはあまり食欲がないことを伝えると、ユダーティが何か言いたそうな顔をしている。
そんな彼女を見てからリズムが口を開く。
「ポテトきらいだった?」
「いや、そんなことないけど……」
「じゃあ、ちゃんと食べないと……。ジャズお姉ちゃん……起きてからずっとそんな調子じゃない。無理してでも食べないと元気でないよ」
「ありがとう……。でも、食欲ないから……」
ジャズはそう言うと、まるで逃げるように部屋から出て行ってしまった。
それから彼女は自分の部屋へ向かうでもなく、ただ人目を避けるように歩いて行く。
ジャズは自室に戻らずにどこへ行くのか――。
それは、リズムに声をかけられるまでいた場所――ブロードの墓標のある場所だった。
ジャズは何をするでもなく、ただブロードの名が刻まれた簡素な石板を眺めている。
(みんな……どうしてあんな明るくいられるの……)
ジャズは俯きながら、先ほど食事をしていたときと同じことを思う。
プロコラットがあのような寝たきりの状態になったのは、イード·レイヴェンスクロフトが行った儀式の影響――。
神具を暴走させたことによって、加護や啓示を受けていた
プロコラットはヘラヘラとそのことを皆に話していたようだが、実際は笑っていられるような状態でなかった。
彼は内臓の一部を人工臓器に変えていることで生き延びているが、この地下基地にあったものは古く、このままで二度と以前のような身体には戻れなくなると言われているのだ。
「マジで勘弁してほしいよな~」
だが、いくら虚弱体質になってもプロコラットは何も変わらなかった。
それは、彼の恋人であるユダーティも同じだ。
彼女は寝たきりになっているプロコラットの状態に、けして悲観せずに彼に寄り添っていた。
二人はジャズの知っている以前のまま、明るい笑みを振りまいている。
リズムもそうだ。
まだ甘えたい盛りであろうあの幼い少女は、基地内でも率先して家事をこなし、ここの住民たちが暗くならないように声をかけ続けている。
本音では行方不明である兄ソウルミューや、仲間だったブライダルやミウム·グラッドストーンのことが心配だろうが。
リズムはそんな素振りは見せずにいた。
ジャズはそんな三人と比べ、自分はなんて弱いのだろうと打ちのめされながら、両手で顔を覆う。
「リズムちゃんたちと食事をしてたんじゃないの?」
泣きそうな顔を拭って、ジャズは声のするほうへ視線を向けた。
そこには、ミックスの通っていた戦災孤児の学校の教師――アミノが立っていた。
ジャズは、早く食べ終わってしまったので、部屋を出てきたことを伝えた。
それを聞いたアミノは、彼女の腕にそっと触れる。
「また残したんじゃないでしょうね? こんな細くなっちゃって……。ジャズちゃんにダイエットは必要ないと先生は思います」
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