#570

荒廃した大地で一体の機械人形が歩いていた。


その機械人形の姿は、まるで玩具のような外観で全長は八十センチメートルほどだ。


その小さな機械人形はしばらく歩くと崖へ突き当たった。


足を止め、見下ろす先には湖が広がっている。


澄んだ湖の中には、透明なドームに覆われた街が沈んでいた。


長い間ずっと水の底にあっただろうそれは、至るところに水草やこけが生えている。


「街までの道は見つけた……。だが、こんな身体で一体どうやって行けばいいのか……」


小さな機械人形はボソッと呟いた。


湖の中に沈む街を見てそう言うと、小さな機械人形はそのまま振り返って来た道を戻っていく。


湖の水が澄んでいるように、吹いている風も新鮮な空気を運んでいる。


さらに、荒廃した大地からは小さいながらも無数の芽が出始めていて、数年後には立派な草木を生やすだろうと思われた。


湖のあった反対側の谷からは、鳥の声や獣の鳴く声が聞こえ、まるで人間が住めなくなったこの世界を祝福しているようだった。


「まだだ……まだ終わっていない……。私のやることはここから始まるのだ……」


小さな機械人形はその短い手を空へと伸ばした。


無骨な金属の三本指で太陽を掴むかのように、小さな機械人形は顔を上げて輝く陽へ見据える。


そこへ突然、野盗の集団で現れた。


全員ライフル銃を持っており、一斉にその銃口を小さな機械人形へと向けている。


「なんだこいつは? ドローンにしちゃぁずいぶんちいせぇな」


「でもさ。売ればけっこうな金になりそうじゃね? あたし的には~そう思うんだけど~」


小さな機械人形は野盗の集団へ目をやる。


人数は六人で男が四人と女が二人。


全員、肌の張りやしわの深さを見る限り、三十代から四十代くらいの中年だろう。


それにしても柄が悪い。


喋り方から表情を見ても、とても良い大人のそれではない。


ひょっとしたら前にデータで見たことがあった、相手に威圧的に迫ることが格好良いと思っている人種なんだろうか。


小さな機械人形は大きくため息をつきながら、そんなことを考えていた。


野盗の集団は小さな機械人形を捕まえようと、銃口を向けながら近づいて来る。


口では大きなことを言っていても内心では警戒――いや、怯えているのだろう。


こんなところにポツンと立っていた機械人形に震えながらも、ゆっくりとその距離を詰めていた。


そんな様子を見た小さな機械人形は、二回目の大きなため息をつくと、彼らに向かって声をかける。


「なあ、金が欲しいなら私を売るよりも、もっと儲かる方法があるんだが」


その言葉を聞いた野盗の集団は、両目を見開きながらライフル銃を下ろしていた。


そして、口々に「マジでかッ!?」「ヤバくね!?」などのあまり上品ではない言葉を吐き出している。


「予想していたとはいえ、こうも簡単に行くとはな……。やれやれだ……」


小さな機械人形はそんな彼らの態度を見ると、本日三回目の大きなため息をつくのであった。

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