#490
――アーティフィシャルタワーで戦闘中のノピアからの通信を聞いたジャズは、逃げ遅れた住民たち数人を連れて街の中を進んでいた。
彼女はミックスと別れた後、運よく機械人形や戦闘用ドローンと出くわすことなく、無事に自分の任務を遂行。
後は、見つけた住民たちを避難場所まで誘導し、最前線で戦っているウェディングとリーディンと合流すればいい状況だった。
(もう誰も街にはいないはず。急いで二人のところへ行かなきゃ)
内心で焦るジャズ。
それは、ウェディングとリーディンを心配してのことだった。
いくら二人が強くとも、次々と現れる敵の数にいつまでも耐えられるとは思えない。
急いで加勢に向かわねばと考えていたのだった。
そんな住民たちを連れて進んでいた彼女の前に、少年と少女二人が現れた。
ジャズはまだ逃げ遅れた人間がいたのかと、その二人に声をかけたが、子どもらは何も答えずに無表情のまま彼女へと近づいて来る。
「深い青色の軍服……。ストリング帝国兵を発見した。これから対象を排除する」
「了解、排除開始」
それから機械のような抑揚にない声で会話を交わすと、二人のうちの一人――少年のほうが背負ってい巨大なタンクリュックから伸びたホースを手に取り、その先に付いた筒先をジャズのほうへと向ける。
「ちょっと待って!? あたしは敵じゃないッ!」
ジャズの叫びも虚しく、筒先からは凄い勢いで水が発射された。
吹き出した水からは次第に湯気が上がり、熱湯へと変わっていくのが目に見える。
慌ててそれを避けたジャズは、一緒にいた住民たちへ自分のことは気にせずに逃げるように言った。
「もしかして操られているの? それにただの水を一瞬で熱するなんて」
ジャズは、すぐに相手が特殊能力者であることを見抜いた。
だが彼女がそう思っている間に、少女のほうが攻撃を仕掛けてくる。
いつの間にか少女の周囲には飴玉ほどの光の球体がいくつも浮いており、それが一斉にジャズへと飛んでいく。
「熱湯の次はなんなのッ!?」
声を荒げながらジャズは、構えた電磁波放出装置――インストガンを撃ってその光の球体の軌道を逸らした。
ジャズはそのまま動きながら、少年と少女と距離を取る。
「一人は水を熱湯に変える能力。もう一人の子はおそらく帯電した微粒子を操作でき、それを光線にして放っている……」
ジャズは考えていた。
熱湯に殺傷能力はないが、もし当たれば確実に動きが止まる。
そこをあの粒子の光線で攻撃されたら、下に着込んだ強化服ごとバラバラされてしまうと。
「手加減なんてしてる余裕はない……。けど、相手は……」
ジャズは迷っていた。
いや、昔の彼女――バイオニクス共和国に来る前の彼女だったら迷わずにインストガンの引き金を引いただろう。
だが、今のジャズはミックスやアミノ、さらにはウェディング、クリーンと関わったことで、以前のような任務のためになんでもできる人間ではなくなっていた。
自分よりも幼い少年少女を前に、ジャズは武器を構えたまま狼狽えてしまっている。
「やるしか……ないのッ!?」
そんなジャズの心情などお構いなく、少年と少女はゆっくりと彼女との距離を詰めていった。
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