#471

――ジャズら女子たちが着替え終わった頃。


ミックスはまだ軍服を着るのに手間取っていた。


「おい、早くしろよ。ベクター長官は五分で終わらせるように言ってただろ」


すでにストリング帝国の軍服に着替え終わったジャガーは、用意していた帝国の飛行装置――ジェットパックの点検を終え、それを背負っていた。


「そんなこといったって……。二人とも、どうしてそんなに慣れてるんだよ」


「いや、お前が遅いだけだろ? それにしても、相変わらず要領が悪いよなぁ、ミックスは」


「要領は関係ないだろ!」


ミックスをからかうジャガー。


ラヴヘイトも渋々ながらもすでに帝国の軍服に着替えていて、そんな二人の様子を眺めていた。


ただ待っているだけの彼に気が付いたジャガーは、何気なく声をかける。


「あんたは着ないのか? 一応こいつは防刃防弾使用だぜ」


ジャガーの言う通り――。


ストリング帝国の軍服には、生地の内側に特殊な繊維のものを使っているため、刃や弾丸を防ぐ作りになっている。


さらに、繊維性のため柔らかいことによる長時間の着用が可能。


また一般的な防刃ベストの素材に使われているケブラー繊維は水に濡れると強度が低下するが、帝国製の特殊繊維はその問題もクリアしていた。


「俺はいい……。服の下に強化スーツを着てるからな」


無表情のまま、抑揚なく答えたラヴヘイト。


ミックスはそんな彼を見て、愛想がないなと思っていた。


しかし、先ほどまで戦っていた相手に向かって、いきなりフレンドリーに話しかけているジャガーのほうがおかしいと思うのが普通の人間の感性だろう。


そういう意味で考えると、やはりミックスは少しズレていた。


だが彼にその自覚はなく、知っている人間の中では、自分が一番まともな神経の持ち主だと思っている。


(なんか、このラヴヘイトって人も怖い感じだ……。ブレイクやフォクシーレディさんとかもそうだったけど、ハザードクラスの人ってこんなのばっかじゃん……)


ミックスは高圧的なラヴヘイトの態度に、愛想がないと思うのと同時に辟易へきえきしていた。


ハザードクラスというのは、バイオニクス共和国が選んだ最も優秀な人間たちなのに、どうしてこうもチンピラのような性格の者が多いのだろう。


ひょっとしたら特殊な能力や運動神経、頭の良さだけでなく、こういうヤクザな接し方をする人間じゃないとハザードクラスになれないのかと考えながら、ミックスは大きくため息をついた。


「まあ、ウェディングは抜きにして、ロウルさんとかは割と紳士だったけど……」


「ブツブツ言ってないで早くしろよ。オレたちはもう行くからな」


「あぁッ! 待ってよジャガーッ!」


もうすぐ五分経つのだろう。


ジャガーは先に行ってしまったラヴヘイトの後に続いていってしまう。


ミックスは、慌ててその場にあるものを手に取ると、急いで二人を追いかけるのだった。

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