#444

ベクターは順番に挙手をした者たちの質問に答えていく。


その質問にはバイオニクス共和国が人体実験をしていたことや、それを上層部は知っていたのかと、訊かれたくないことも含まれていた。


それでもベクターは怯むことなく堂々と答えていく。


「私もそのことには心を痛めている。だからこそ暗部組織を解体し、新たに組織を編制したのだ」


彼が答えことは誰もがわかっていた――いや、こう答えるだろうというものだった。


だが、そんなありきたりな答えでも、これまでバイオニクス共和国と敵対していた武装集団――生物血清バイオロジカルを率いていたベクターが言うと話が違ってくる。


それは、ベクターはこれまでずっと共和国の闇を暴くために戦ってきたことを、この国の事情に詳しい者ならば誰もが知っていたからだ。


さらに、バイオニクス共和国を出て行ったロウル·リンギングもそうだが。


彼とベクターは、共和国の前身組織であるバイオナンバーの元兵士たちが住むこの国では、未だにその影響がおとろえてはいないのもあった。


誰もが納得するという、明確な答えを聞いたわけではなかったが。


ベクターの言葉に、会場に来ていた者の殆どが反論をすることはなかった。


「では、質問がなければ次に行かせてもらう」


ベクターがそう言うと、彼の傍に立っていた髪を逆立てている筋骨隆々の男――イーストウッドが部下たちに合図を出す。


「これから、誰よりも先に才能アビリティ条約に登録してくれた者らを紹介したい」


そのベクターの言葉と共に、会場に数人の男女が現れた。


それを見ていた群衆たちからは驚きの声があがり、会場がざわつき出す。


「嘘……ウェディングッ!?」


それはジャズも例外ではなかった。


ざわついた声がするの中で、ベクターはマイクに向かって口を開く。


「紹介しよう。この三人がこれからのバイオビザールを支えてくれる者たちだ」


ベクターの紹介で現れたのは――。


舞う宝石ダンシング ダイヤモンドウェディング。


死の商人デスマーチャントフォクシーレディ。


還元法リダクション メゾットラヴヘイト。


共和国が選ぶ最も優秀な能力を持った者――ハザードクラスの三人だった。


会場にいた者たちは、世界的にも有名な三人を見てざわついていたのだ。


ベクターは三人の紹介を終えると、さらに言葉を続ける。


「現在五人いるハザードクラスの中から、すでに三人が才能アビリティ条約に参加してくれている。どうやら会場内にもう一人いるようだが。これを機に是非とも彼にも参加を考えてもらいたい」


ジャズはベクターが言っている人物が、ブレイクのことであると気が付いていた。


おそらく彼女以外にも気が付いている者は多いだろう。


それも当然だ。


何故ならばブレイクは変装もせずに、皆が知るその顔を晒してこのアーティフィシャルタワーに現れたのだから。


ジャズがそう考えていると、ベクターは次の話を始めていた。


「それと、個人的にだが。今日私が最も嬉しかったことを伝えたい。それはこの公開会議の場に、ストリング帝国の将軍――かつて世界を救ってくれた英雄が来てくれたことだ」

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