#439

バイオニクス共和国のとある研究所内で、白衣姿の人物たちが集まっていた。


その者たちは、年齢も性別もバラバラで共通しているのはその着ている白衣だけだ。


「シャロレー、ルパカ、モヘア、アラゴネセ、フリージャン、コーカシアン、サフォーク、カシミア……。よし、これでファミリーは全員揃ったか」


その中の一人、ラムブリオン·グレイが集まった者たちの顔を確認してから口を開いた。


集まった者たちは、このバイオニクス共和国をそれぞれ統括そうかつするグレイファミリーだ。


ラムブリオンはそんな上層部の一人であり、今集まっている人物の中では若輩じゃくはいのほうに入る。


「後はヘッドだけだな」


ラムブリオンの言葉を聞き、彼と同じくらいの年齢と思われる女性――カシミア·グレイが口を開く。


「ヘッドは後で結果だけ教えてほしいって、ついさっき連絡が来たわ」


「そうか。ならば始めよう。サーベイランス、テーブルと皆に椅子を頼む」


ラムブリオンはカシミアの言葉を聞くと、天井へ向かって声を発した。


すると、床から円卓のテーブルと人数分の椅子が現れ、殺風景だった研究室があっという間に会議室へと変わった。


ラムブリオンが声をかけたのは、この国のすべての電子機器を管理している最新鋭の人工知能――サーベイランス·ゴートである。


今日上層部である彼らが集まった理由は、このところ活発に動き始めているテロ組織――永遠なる破滅エターナル ルーインについてだった。


だが、まず話に上がったのは、共和国の敵対組織のリーダーだったベクターについてだ。


ベクターは現在、上層部との話し合いで自身の組織であった生物血清バイオロジカルを解散し、そして共和国の暗部組織ビザールをも解体して、すべての特殊能力者を管理するための法律――才能アビリティ条約という登録法を進言していた。


ラムブリオンやカシミアなど上層部らはその話をすんなり承諾。


何の問題もないと次の話へ進む。


「では、次はラヴヘイトについてだが」


ベクターが共和国の囚人収容施設――監獄プレスリーから脱獄させたハザードクラスの一人――還元法リダクション メゾット の二つ名で呼ばれるラヴヘイト。


彼の持ちかけてきた取引のことに話題は変わる。


「彼の話によると、イード·レイヴェンスクロフトが神具と奇跡人スーパーナチュラルを狙っているのは、それらを手に入れてこの世界から人類を消すためのようだ」


ラムブリオンの報告を聞いたカシミアが顔にかかった髪を払って鼻で笑う。


「そんなの前と変わらないじゃないの。ただ手段がテロ行為から神具集めに変わっただけでさ」


カシミアの言葉に他の上層部の者たちも同じような意見だった。


だが、次にラムブリオンの話を聞くことで、彼らの意見は変わる。


「そんな単純な話ではないようだぞ。どうやらイード·レイヴェンスクロフトは禁術というのが使えるらしく、加護を与えられずとも神具の力を引き出せるようだ」


ラムブリオンの聞いた話は――。


イードが現在確認されている神具をいくつか手に入れるだけで、世界を改変するほどの力を持つこと。


さらに、ある儀式によって奇跡人スーパーナチュラルからその加護をの力を奪えるのだと言う。


「ならその神具を破壊して、奇跡人スーパーナチュラルを殺してしまえばいいんじゃないかしら?」


「ああ、まさにその案がラヴヘイトが考えたものだ。彼は自分が奇跡人スーパーナチュラルを始末するから、その代わりに時の領地タイム·テリトリーとの関係の改善をしてほしいと言ってきた」


「どうせ女でしょ? 馬鹿な男ねぇ。時の領地タイム·テリトリーはこないだ永遠なる破滅エターナル ルーインに潰されちゃったのに」


カシミアがラヴヘイトの取引の内容を聞いて笑っていた。


そう――。


今さらラヴヘイトが奇跡人スーパーナチュラル何人殺そうが、肝心の時の領地タイム·テリトリーはもう滅ぼされてしまったのだ。


それを彼が知ったときにどうなるのか。


カシミアはそれを想像して笑っているのだろう。


そんな彼女とは違い、他のファミリーの者たちは無関心な様子で、彼らへ指示を出すヘッド――。


グレイファミリーのリーダーが出した結果を話すように言う。


「ヘッドは、人工神クロエ·クラフト計画を再び始めようとしている」


人工神クロエ·クラフト計画とは、かつてこの世界を滅亡させようとしたコンピューターから名を取ったもので、クロエのような強力な力を持つ人工知能を生み出し、世界を守らせるという計画だ。


以前に共和国に現れた人造人間――後にサービスと呼ばれた少女は、その人工神クロエ·クラフト計画を仕切っていたアイスランディック·グレイが造り出したものだった。


だがアイスランディックは、そのサービスを狙ったある呪いの儘リメイン カースとの事件の後に失踪。


そして肝心の、暴走コンピュータークロエを模して造られた人工生体ボディの少女サービスもその行方がわからなくなった。


「あの爺さんはどうせ殺されたんでしょ? たぶん帝国のスパイにさ」


「それは問題ではない。我々が考えるべきはリアクターのことだ。ルーザーリアクターはアイスランディックが造り出した技術だからな」


「それならなんとかなるわよ。私はあの爺さんの箱からデータは取って置いてたからね。それよりもさ。今から人工知能のプログラムを一から作り直す時間はあるのかしら。永遠なる破滅エターナル ルーインが完成まで待ってくれるとは思えないんだけど」


「そちらは問題ない。この国には最高の人工知能がすでにある。なあ、サーベイランス」


笑みを浮かべたラムブリオンは、天井へ向かって――サーベイランス·ゴートへとそう声をかけた。

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