#417

クスッと笑みを浮かべると、イードは慇懃いんぎんな態度でクオに向かって口を開く。


「かつて私はすべてに絶望し、救いを求めた。そして、あなたの教えを実践した」


「その結果がこれか?」


かつての師に訊ねられたイードは、その屈強な体を震わせて悲しそうな顔をする。


「あなたの教えだけでは世界は救えない」


「マスター·イード……。儂はお前を救いたかった……。そして、お前は未だに苦しみの中にいる」


「いえ、我が師よ。私は救われました。あなたとクロエによってね。そして、これからこの世界に住むすべての人間が救済される」


「それは救済ではないぞ、イード·レイヴェンスクロフト。人はそれを虐殺と呼ぶのだ」


クオは顔を歪めて言葉を返した。


口調はあくまで静かなものだったが、その表情を見れば彼の弟子への想いがわかる。


だが、イードはそんな師を見て笑っている。


「あなたは知っていたはずだ。私が気が付くずっと昔から。この方法でしかこの地球ほしを救えないことを。だからこそ七年前に起きたクロエによる慈悲も、バイオニクス共和国とストリング帝国の戦争にも関与せずに、ただ山奥に引きこもっていたのだ」


「それは違うぞ、マスター·イード。儂は啓示を受け、その通りにしていたにすぎん無力な老人だ。お前のように世界をどうこうしようという傲慢さなど持ち合わせておらぬ」


クオはそう言葉を吐きながら両手で円を描く。


その開いた掌からは光が現れ始め、そしてその手を力強く握って身構えた。


「そして、そんな無力な老人が、ようやく使命を果たす時が来たようだ」


「マスター·クオ……。私が気掛かりだったのは時の領地タイム·テリトリーに伝わる禁術の存在だ。そして、その術を扱えるのはすでにあなたのみ。悪いがあなたにはここで死んでいただく」


身構えるクオに向かってイードもまた彼と同じように、両手に光を纏わせた。


二人の様子を見ていたメイカは、クオに加勢しようとすると突然後ろに現れた光の輪に引きずり込まれそうになる。


「なにこれッ!? なんなのよッ!」


メイカは何もないところから現れた空間に引きずり込まれる瞬間に、自分のオーラで作った光のロープを側にあった木に括り付けた。


「マスターッ! マスターなんでしょこれ!? あたしも一緒に戦うからこの空間を閉じてッ!」


「メイカ……いや、マスター·メイカよ。お前に辛い宿命を背負わせてしまうことを許してくれ」


「なにそれ!? そんな言い方……まるでこれから死んじゃうみたいじゃないッ! マスター·クオは史上最強の偉大なマスターなんでしょッ!? そんな法衣を着たゴリラなんかに負けるわけないッ!!」


短い髪を振り回して声を荒げるメイカだったが、気に括り付けていた光のロープをクオによって切断されてしまう。


そして、最後までクオの名を叫んでいた彼女は、そのまま空間と共に消えていった。

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