#415

どこかの山林へと移動したクオは、メイカの拘束を解いた。


すると、彼女はクオへと殴り掛かる。


その手はオーラを纏っており、彼女は本気でマスターに攻撃をしたことがわかる。


だが、いつの間にか後ろへと回っていたクオに、その身体を押さえつけられてしまった。


「くッ!? その懐中時計の力を使ったんでしょッ! 何が禁断の術よ! そんな力がありながらどうして里の皆を助けなかったのよッ!」


メイカは完全に動きを封じられても、ずっと喚き散らし続けた。


何が里長だ


何がマスターだ。


時を操る神具クロノスを扱えるくせに、永遠なる破滅エターナル ルーインから里を守れなかったのかと、クオのことを罵倒し続けている。


だが、クオは静かに彼女へ語り掛ける。


時の領地タイム·テリトリー――儂らの里は落ちた……。奴の狙いはこの里にあった神具だ。もし、これが奴の手に渡ったら……」


「奴って誰だよジジイッ!」


しかし、今の荒ぶるメイカには、彼の言葉は届きそうにない。


誰だと訊ねてきたというよりは、やかましいという言葉を言い換えただけだ。


永遠なる破滅エターナル ルーインの最高指導者……イード·レイヴェンスクロフトだ」


それでもクオは彼女に言葉を続ける。


もう神具を守れる里の者はメイカしかいないと、押さえつけている彼女の首に懐中時計――クロノスをかけた。


そのときに手の力が緩んだのか。


押さえつけられていたメイカは、そこからさっと抜け出してクオのほうを睨みつける。


「こんなもの……誰が守るかッ!」


メイカはクビにかけられた懐中時計を手に握りしめて吠えた。


そして、乾いたはずの涙がまた流れ出している。


「あたしは……やっと、わかったのに……。やっと……里のみんなの気持ちがわかったのにッ!」


それからメイカは、ロウルに連れて行ってもらった町――ハシエンダでのことを話した。


そこで、里の皆が自分の境遇に対して同情ではなく、困っている人間の力になりたいという素直な気持ちから優しくしてくれたことを理解できた。


これからだった。


すべてはこれから里の人間たちとの関係を築いていくはずだったと、涙も拭わずに叫んでいる。


「皆の気持ちを理解しながら、何故奴らを叩きのめした?」


「はッ!? 当然でしょ!? あたしは強い! 力も気持ちもあんたみたいな臆病者なんかよりずっと強いんだからッ! 殺された皆の仇を取ってやるんだよッ!」


その言葉を聞いたクオは俯くと、悲しい顔をしながら首を左右に振った。


そして、そのままの姿勢でメイカに返事をする。


「ロウル殿のおかげで少しは成長したかと思ったが。その傲慢さ、憎しみ、恐怖、執着……。それでは奴には勝てぬ……」


「うっさいッ! あたしに偉そうにすんなって言ったでしょッ!? そのイードって奴なんてあたしがぶっ殺してやるッ! そして永遠なる破滅エターナル ルーインに関わる人間すべて殺して殺して殺しまくってやるんだッ!!」


「メイカ……。お前は、自分にどれだけの責任が重く圧し掛かっているのかを理解していない。お前は選ばれた人間だ。そして神具クロノスから啓示を受け、未来を知る義務がある」


「責任なんて知るかッ! 故郷はベルサウンドとかいうガキに滅ぼされて……。パパとママも死んで……。恋人とは引き離されて……。せっかく謝ろうとしたときには里の皆は死んじゃったんだよッ!?」


メイカはその手にオーラを纏い、ゆっくりとクオへと近づいて来る。


握られた懐中時計――クロノスは握りしめながら。


「あなたなら救えたでしょ!? あたしは……知ってる……よく知ってるんだよぉ……。マスターは厳しくても優しいって……。生き物すべての命を大事にしているって……。本当はラヴヘイトとあたしを引き離したのにだってちゃんと理由があるんだって……。それなのに……どうして……どうして皆を助けてくれなかったのッ!!」


メイカの手から光が消え、彼女は一心不乱にクオの身体を叩きだした。


その姿は、まるで我が儘を言って泣きじゃくる子供のようだった。


クオはそんな彼女を抱きしめながら、ただその頭を擦った。


できる限り優しく、そして穏やかに。


すると、メイカはもう彼を叩くのをやめ、そのクオの枯れ木のような老体に顔を埋める。


「ありがとう……メイカ。だが、儂はずっと無力だ……。ずっと昔から……クロエとルーザーの時代から……」


そして、クオはまるで懺悔するかのように呟くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る