#407

ハンッと鼻を鳴らしてメイカは言葉を続ける。


この時間を止める力を使い、今まで自分をいいように倒してきたのだなと。


しかも里の者たちにも使用人たちにも秘密にし、こんな凄い力を隠していてマスターは本当に人が悪い。


自分が時の領地タイム·テリトリーの里長としての威厳を守るためとはいえ、それはやり過ぎじゃないかと、まるでテストでカンニングをしていた同級生を見つけたかのように言う。


「でもまあ、気持ちはわからなくはないわよ。だって、この力を使わないとあたしには勝てないからでしょ?」


「何か誤解をしているようだが、違うぞメイカ。この術を隠していたのには理由があるのだ」


「だからそれはあたしみたいなよそ者の、しかも片目の女に負けたなんてことになったら、里長として偉そうにできないからでしょ? まったく、同情してあたしに技を教えといてこれだもの。ホント……真実なんていっつもクソ。ラヴヘイトのことだって単なるきっかけだったんでしょ? この秘密がいつかあたしに見つかったらと大変と思ったから……だから牢屋に閉じ込めたんでしょ? 何年もさ」


「それは誤解をしていると言っているだろう。わしはお前のことをよそ者と思ってはおらん。この里の者としてずっと扱ってきたつもりだ。それにお前を牢に入れたのは掟を破ったからだ。あとな、片目がどうとかはこの話に関係はない。それはお前の劣等感だろう」


「ズルしてたジジイがなに偉そうに言ってんだよッ! 今まで散々いい気になってたんでしょッ!? 身寄りのない女を引き取って技を教え、才能があるとか言って叩きのめし続けてさッ! 今さらそんなことしてた人間の言葉を信じられると思ってんのッ!?」


それまで皮肉っぽい言い方をしていたメイカが声を張り上げると――。


クオは何も言わずにただ悲しそうな顔をした。


そんな肩を落としたマスターを見たメイカは、動かない使用人を押しのけて部屋を出ていく。


クオはそんな彼女の背中に静かに声をかけた。


「たとえお前が信じなくとも……。儂の気持ちは何も変わらんよ……」


それから屋敷を出たメイカは、一人で里の中を歩いていた。


彼女がこの里に来たのは、すでに成人していたときだ。


故郷だった国での思い出は特になく、両親の仕事の都合で色々国を転々としたこともあり、メイカにとっては一番長くいる場所である。


だが、彼女はこの里が嫌いだった。


連れて来られてからずっと生命エネルギーを操る技術を覚えさせられ、周りにいるのは自分のことを両親を亡くして帰るはずだった国を滅ぼされた可哀そうな女と同情の目。


時の領地タイム·テリトリーの住民たちは皆メイカに優しかったが、彼女にとって同情されることは何よりの苦痛だった。


「もう、マスターのこともあんな術もどうでもいい……。ラヴヘイト……。あなたに会えればあたしはそれで……」


メイカは一人俯きながら歩いていると、そこへオーデマとパテックが現れる。


二人は手にバスケット持っており、笑顔でメイカに近づいて来る。


「捜したよ、メイカ」


パテックがそう言うと、メイカは彼女を睨みつけた。


なんなんだこいつらは言いたそうな顔をし、声を荒げる。


オーデマは怯えながらもパテックを守るように彼女の前に立ち、メイカに微笑んだ。


その彼の行動が、さらにメイカを苛立たせる。


「そうやってあんたら二人であたしのことを笑ってんでしょ!?」


パテックは苛立ったメイカに返事をしようとしたが、オーデマが彼女を手で制し、代わりに自分が口を開いた。


「笑ってなんかいないよ。僕らはただ君と一緒に――」


「同情はよしてよッ!」


メイカはオーデマの言葉をさえぎって叫んだ。


すると、オーデマの後ろにいたパテックが彼を押しのけて前に出てくる。


「わたしたち……同情なんて……しないよ」


「じゃあ何しに来たの? 二人してバスケットなんか持っちゃってさ。ああ、今日は良い天気だから友達と一緒にお外でご飯でも食べようかな~とでも誘いに来たってわけ? 大体あたしとあんたらは友達同士なんて言えないのにさッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る