#408

メイカは今にも殴り掛かり勢いでオーデマとパテックの目の前に近づく。


「あんたらはあたしがこの里に来てからずっとそうだ! ああ、可哀そうなメイカ、手を差し伸べてあげなきゃ、わたしたちが元気にしてあげなきゃ、あんたらはそうやって落ち込んでいるあたしに声をかけてそれで楽しんでいるんだ。自分たちのおかげであいつを元気にしてやった、自己満足で気分はハッピー、あんたら本当に……優しいカップルだよッ!」


彼女に怒鳴られた二人は黙ったままでいると、オーデマがパテックの手を引いてその場を去っていた。


メイカはそんな二人はの後ろ姿の見ると、残っている片目を細めて側にあった木に両手をついて俯く。


「だって……そうじゃない……。違わないじゃないのよ……」


そして、里からフラフラと出ていった。


山奥にあるこの時の領地タイム·テリトリー


彼女は牢屋に入れられる前に、よくラヴヘイトと隠れて会っていた場所へと向かう。


ここらの景色がよく見渡せるところだ。


そこでは晴々とした青空と里にいるときよりもさらに新鮮な空気が迎えてくれたが、メイカのとってそれはただの冷たい風でしかなかった。


「ラヴヘイト……。あなたに会いたい……会いたいよぉ……」


今にも泣きだしそうな彼女の前に、ハザードクラス――非属ノン ジーナスの二つ名で呼ばれるロウル·リンギングが現れた。


「今は諦めるしかないと思うぜ」


涙を拭ったメイカは近づいてきたロウルに食って掛かる。


「彼と一緒にいられない人生なんて……」


「終わりだっていうのか? 世界は広い……。今は絶望に押し潰されそうになっているかもしれないが、生きてさえいればきっと何かが、お前さんに生きる意味を与えてくれる」


「たとえばなによ? この里とか? それとも仕事? 友人? 新しい恋人? そんなもの……今のあたしにはいらないッ! 役に立たないのよッ!」


メイカは拭った涙がまた溢れてきてしまっていた。


だが、彼女は大人しくなるどころか、さらに表情を強張らせて声を張り上げる。


「あんたのことはラヴヘイトからちょっと聞いてるよ。共和国ができる前からずっと世界のために戦っていた人だってね」


それからメイカは、知っている限りロウルのことを口にした。


彼がハザードクラスと呼ばれる前から有名人で、せっかくストリング帝国との戦争に勝利したというのに、手に入れた安定した地位を捨てて野に下り、個人的にボランティア活動をしていることや――。


自分の作品――本や絵を発表してその売り上げで環境問題に貢献していること――。


それらのロウルの活動を、まるで小馬鹿にするように言う。


「スゴイじゃない! 地位も名誉も安定も捨てて他人や自然のために生きるなんてさ! だから、そんなあなただから、あたしみたいな可哀そうな奴にも優しくしてくれてんでしょ!? ああ、今日も不幸な人間を救ってやった、俺はスゲー人間だって、いい気になってるんでしょ!? そういう自己満足や同情はもういいんだよッ! そんなことされてもあたしは全然嬉しくないんだッ!」


ロウルは罵倒ばとうされ続けた。


だがメイカが喋っている間、彼が何かを言い返すことはなかった。


ただ黙ったまま頷き、ときおり返事をするだけだった。


メイカがあらかた言いたいことを言い尽くすと、ようやくロウルが口を開く。


「なあ、ちょっとドライブでもいくか? 付き合ってくれよ」

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