#404

片目だけの目を細めながら叫んでいたメイカの元に――。


恐る恐る近寄ってく来る男女の二人組がいた。


その男女は見るからに震えているが、なんとか笑みを浮かべている。


そして、寝室で布団の上にいるメイカに声をかけた。


「や、やあメイカ。久しぶり」


「お、思っていたよりも、元気そうだな」


その男女の名はオーデマとパテック。


身長はやや男であるオーデマのほうが高いが、体格的に見ても女性であるパテックとそうは変わらない。


その表情や態度を見れば誰でもわかるが、とても大人しそうな二人だ。


メイカはせっかく笑顔で声をかけてくれた二人のことを、まるで家を守る番犬のように睨み付けていた。


今にも吠え出しそうな勢いの顔だ。


「なんなのよあんたら? あたし、ようやく自由になれてこれから忙しくなるとこなんだけど?」


メイカはその苛立った顔のまま、オーデマとパテックにそう言い放つと、用がないならさっさと帰ってくれと言葉を続けた。


オーデマとパテックは、それでも帰らずに彼女とコミュニケーションを取ろうとした。


だが、メイカにその気はなく、冷たく突き放し続けるだけ――。


心配して来てくれた者に対してあんまりな仕打ちだが、その後もメイカの二人に対する態度が、柔らかくなることはけしてなかった。


「おッなんだよ。友達来てくれてんじゃん?」


そこへ、クオと話を終えたロウルがやって来た。


ロウルはオーデマとパテックに向かって両手の掌を合わせて一礼すると、二人も同じように手を合わせて頭を下げた。


そのときの二人の様子は、メイカを前に恐る恐るしているときとは違って、緊張して身体が固くなっているようだった。


無理もない。


目の前にいるこのパーマ頭の男は、世界的な有名人なのだ。


生まれてから一度もこの里――時の領地タイム テリトリーから出たことのないオーデマとパテックにとっては、ハザードクラスと呼ばれるロウルは偶像と言ってもいい。


いや、ロウルがただの有名人というだけだったら、二人もここまで緊張はしなかっただろう。


オーデマとパテックがここまで身を固くしてしまうのは、二人がロウル書く本や絵などのファンだったからだった。


「ロ、ロウル·リンギングさんですよね?」


「手に入る作品はすべて読ませてもらってます」


オーデマとパテックがそう言うと、ロウルはわかりやすくニッコリと嬉しそうにしていた。


彼が嬉しそうなのも当然だ。


何故ならばロウルの場合――。


自分の作品よりも、彼の活動やそのハザードクラスとしても評価のほうが世界的に有名だからだ。


中には、ロウルが作品を出していることすら知らない者も多いのだ。


「おう、ありがとう。近いうちまた新しいの書こうと思ってるから楽しみしててくれよ」


「は、はい」


「本当ですか!」


ロウルの言葉に、二人は両目を大きく開いていた。


そして、緊張ももう解けているようだ。


そんな様子を見ていたメイカは、布団から体を起こして不機嫌そうに寝室を出ていくのだった。

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