#401
メイカにはこの状況が理解できなかった。
何故目の前にハザードクラスのロウル·リンギングがいるのかが。
この山奥にある里――。
ロウルは以前は共和国側の人間だったが、現在はその
まさかわざわざロウル·リンギングが自分を牢屋から出すために、共和国から許可を取ったのか。
いくらロウルが評判が良い男でも、今日初めて会う女のためにそこまでするだろうか。
メイカはそう思いながら、口を開いたままでただロウルのことを眺めていた。
そんな彼女のことなど気にせずに、牢屋の扉を開けて手枷足枷を外していく。
「よし、じゃあメシ食って身体洗ったらマスターとこ行くぞ」
「は、はあ……。てゆーか、なんであなたみたいな有名人があたしなんかを?」
「いいから早く出ろよ。話はここから出てからのほうがしやすいだろ」
それからロウルに連れられて牢屋を出たメイカは、まず囚人用の浴室で身体を洗い、服を着替えて食事をする。
当然テーブルにはロウルもおり、二人でスパイスと野菜や肉と一緒に焼いた麺――チョウミンを食べていた。
「いや~いいねぇ。ここは空気もうまいし、食べ物もうまい」
「そうですか……。あたしはこんなとこ好きじゃないですけど……」
ご機嫌に麺を口に運んでいるロウルとは違い、メイカは終始不機嫌そうだ。
それも仕方ないかもしれない。
彼女はここ数年の間、ずっと牢屋に閉じ込められていたのだ。
それでも食事や入浴、さらには読書や運動の時間などは人並みに与えられていたので、里の掟を破った者というには破格の扱いだったが。
メイカにとってそんなことで自分が恵まれているとは考えられない。
「それよりも、よくあたしを牢から出すことをマスターが許しましたね」
彼女が言ったマスターとは、この
クオは長い間この里を守ってきた男であり、その年齢は百歳は超えていると言われている。
皆は彼のことを、尊敬の念を持ってマスター·クオと呼ぶ。
「マスター·クオも好きでお前さんを牢に入れてたわけじゃない。そこは理解してやれよ。路頭に迷ってたとこを拾ってもらって、おまけにこの里の技術まで教えてもらったんだろ? いろいろあると思うが、あまり悪くいうもんじゃねぇって」
ロウルはメイカに気を遣いながらも、クオのことをフォローした。
彼が言ったこの里の技術とは、人間の体内にある生命エネルギーをコントロールする技のことだ。
それは掌から生命エネルギーを放ち、相手を吹き飛ばしたり、傷を治すことができるといった技術だ。
メイカがこの里に来たのはそこまで長くはないが、クオから直々に教えてもらい、さらに彼女には才能があったのだろう。
メキメキと上達し、今ではこの里にいる熟練のクオの弟子でも敵わないほどの力を得ていた。
「別に……。マスター·クオには感謝してますよ……。だけど、諦めきれないことだってあるじゃないですか……」
メイカはろくに食事に手を付けず、俯きながらそう言った。
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