#369

――ソウルミューとブライダルが一人乗りの航空機――ジグソーポットを走らせていたとき。


ダブは、永遠なる破滅エターナル ルーインの大型航空機の乗っていた。


彼に手の中には、不機嫌そうに抱かれている猫――シストルムがいた。


シストルムは、自分の力がバーバリーに通じないことを不可解に思っている様子だ。


「解せぬ、解せぬぞ……。何故我の力が通じぬのだ」


ブツブツと腕の中で言い続けるシストルムに――。


ダブはかける言葉が見つからない。


いや、心ここにあらずといった表情で文句を呟き続けている猫を見つめているだけだ。


その整った顔には明らかに憂鬱ゆううつな色が読み取れる。


そんなダブに気が付いたシストルムは、ぬっと自分の顔を彼に近づけた。


「わッ!? いきなりなんだよ!」


「何を悩んでいるかはわかっておるぞ。あの男――リズムの兄のことだな」


シストルムにそう言われたダブは何も答えなかった。


それは図星というのは的確ではなく、神具の化身であるシストルムは相手の精神や心を操ることができる。


その力を使って今のダブの心境を知ったのだろう。


言い当てられてしまった彼は、シストルムを見ていることしかできないでいた。


「お主も解せぬ奴だな。あんなろくでもない男を助けるなど……。いや、どうも我の周辺には変わり者が多いようだ。本当に変わったことばかり起きている。よく考えれば見ず知らずの猫……我を助けようとしたリズムからそれは始まった。……あの傭兵ブライダルにも、リズムの父親にも、そしてバーバリーという男にも我の力が効かなかった……」


「そ、それは……」


シストルムが言葉を続けていると、ダブが口を開いた。


そして、何故シストルムの精神攻撃が通じなかったのかを話し始める。


彼が言うに、それは体内の生命エネルギーをコントロールする技術によって、シストルムの精神攻撃を遮断できるらしい。


「僕も詳しくは知らないけど、お父様がそんなような話をしていたのを聞いたことがあるよ」


「お父様か……。今世界をにぎわせている永遠なる破滅エターナル ルーインの最高指導者イード·レイヴェンスクロフト……。感じるぞ。お主から凄まじいマグマのような愛憎を」


シストルムは、父イードの名を出したダブから感じたことを口にした。


彼がこれまでの人生で父親からされてきたことを知ったのだろう。


自分の力が通じないことよりもダブのことが気になったようだ。


憎むのは当然、だがこの男はまだどこかで父を愛している。


シストルムには、そんな複雑な感情を父に向けているダブのことを不可解そうにしている。


自分を飼っていた少女リズムもそうだが。


子というものは親を嫌いつつも、完全に憎みきれないものなのか。


理屈に合わない面倒な生き物だと、シストルムは大きくため息をついた。


「お主には行きたいところがあるのだろう?」


「別に……」


「隠しても無駄だ。我にはすべてわかっている」


シストルムはダブの肩にひょいと飛び乗り、彼の耳元でささやく。


「我が手を貸す。ここから脱出し、お主の望むところへと行くのだ」

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