#368

「何このガラクタ……。本当に動くの?」


「いいから乗れって操縦方法は原付スクーターと同じだ」


疑っているブライダルにソウルミューが声を張る。


この乗り物の名前はジグソーポット。


タイヤのない一人乗りの車のような外観だが、操縦は原動機付自転車のような感覚できる小型の航空機だ。


ソウルミューがエレクトロハーモニー社時代に開発したものだが、顧客の受けが悪くさらに売り上げも酷かったため現在は製造中止したものだった。


最大速度は120km/h出る完全密閉型。


ソウルミューとブライダルはドアを開け、両手でハンドルを握りブレーキを掛けた状態で後方確認をしてから着座。


そして、刺してあった鍵を回してエンジンをかける。


上昇と下降は足を乗せるペダルで操作する。


乗り込んだ二人はエンジンをかけて、空へとゆっくり上がりそのまま右手の動かしてアクセルを回す。


「おおッ! 本当に飛んでる!」


「じゃあ尻尾頭。さっさとダブと猫を連れて行った奴らの居場所を教えろよ」


「私はブライダルだ。金をもらえば何でもやる不死身の傭兵少女だよ。尻尾頭って呼ぶな」


それからブライダルを先頭に二人は空へと飛んで行った。


ソウルミューはジグソーポットに付いた通信機器で、ブライダルに声をかける。


「奴らの居場所はハシエンダから遠いのか?」


「このスピードなら一時間もかかんないよ。それにしても密閉型の乗り物があってよかったよ」


「どういう意味だよ?」


「ああ、その永遠なる破滅エターナル ルーインの隠れ家はサルファイドゾーンにあるんだよ」


サルファイドゾーンとは――。


硫化水素のガスが地面から噴き出ている地帯。


当然生物など住めず、誰も入ることのない場所である。


ブライダルの話によると、ダブとシストルムを連れて行ったバーバリーは、ここに永遠なる破滅エターナル ルーインの支部を置いているようだ。


「私はそのバーバリーってのは知らないけどさ。永遠なる破滅エターナル ルーインがそこに基地をかまえてる情報なら聞いたことがあるよ」


「よりによってサルファイドゾーンかよ……。ジグソーポットから出たら確実に死ぬな」


ソウルミューは永遠なる破滅エターナル ルーインの居場所を聞くと、その表情を歪めた。


それも当然である。


硫化水素のガスが地面から噴き出ているということは、その周辺はすべて空気中に硫化水素が含まれている。


そのため、ガスマスクなどの保護具もなくそこへいると硫化水素中毒になってしまう。


硫化水素中毒になると初期の段階の場合、頭痛やめまいを起こすようになり、重症の場合、痙攣けいれんや失神を起こして意識を失ってそのまま死亡する。


軽い症状の場合でも、嘔吐おうとの症状が出てきて気分が悪くなる。


最悪の場合酸素を吸引させることで、中毒症状を緩和かんわして治療を行なうことができ、意識を失っている場合は心臓マッサージによる治療が効果的だと言われている。


「なによ~? ビビっちゃった? クソ兄貴はここで帰ってちゃってもいいんだよ。シストルムは私が代わりに助けてきてあげるから」


「誰が逃げるかよ! それとオレはクソ兄貴じゃねぇ! 世界最強の発明家インベンターソウルミューだ!」


ブライダルは飲んだくれが息巻いていると笑ったが。


自分のことをそう言い切るソウルミューを見て、その内心で面白い奴と思うのだった。

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